刑法(強制性交等罪)

強制性交等罪(12) ~「強制性交等罪と①公然わいせつ罪、②強制わいせつ罪、③準強制性交等罪、④住居侵入罪、⑤逮捕監禁罪、⑥わいせつ目的略取・誘拐罪、⑦強盗罪、⑧覚醒剤取締法違反(覚せい剤の不正使用罪)との関係」を判例で解説~

 強制性交等罪(刑法177条)と

  1. 公然わいせつ罪
  2. 強制わいせつ罪
  3. 準強制性交等罪
  4. 住居侵入罪
  5. 逮捕監禁罪
  6. わいせつ目的略取・誘拐罪
  7. 強盗罪
  8. 覚醒剤取締法違反(覚せい剤の不正使用罪)

との関係について説明します。

① 公然わいせつとの関係

 強制性交等罪と公然わいせつ罪刑法174条)との関係について説明します。

 強制性交等罪が公然と犯された場合は、強制性交等罪と公然わいせつ罪の両罪が成立し、両罪は観念的競合になります。

 以下の判例が参考になります。

 なお、以下の判例は、強制わいせつ罪と公然わいせつ罪との事案ですが、考え方は強制性交等罪との場合と同じです。

大審院判決(明治43年11月17日)

 裁判官は、

と判示しました。

 なお、強制性交等罪と公然わいせつ罪の両者の成立が認められる場合は、両罪の構成要件を充たす場合です。

 たとえば、強制性交等罪を屋外で行っても、不特定多数の人の目に触れるような場所でなかった場合は、公然わいせつの構成要件を満たさず、強制性交等罪のみが成立することになります。

② 強制わいせつ罪との関係

 強制性交等罪と強制わいせつ罪刑法176条)との関係について説明します。

 同一の被害者に対して接着して強制わいせつ行為と強制性交行為が行われた場合は、両者を包括して強制性交等罪の一罪が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京地裁判決(平成元年10月31日)

 裁判官は、

  • 強制わいせつとこれに接着して強姦が行われた場合は、これを包括して1個の強姦行為と評価すべきである

と判示しました。

③ 準強制性交等罪との関係

 強制性交等罪と準強制性交等罪刑法178条)との関係について説明します。

 反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行・脅迫によって女子を抗拒不能又は心神喪失の状態に陥らせ上、強制性交を行った場合は、準強制性交等罪ではなく、強制性交罪が適用されます。

 この点について判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年7月9日)

 裁判官は、

  • 刑法第177条は、暴行又は脅迫をもって婦女姦淫した者を、強姦の罪(現行法:強制性交等罪)として処罰する旨を規定し、次に同法第178条において、人の心神喪失若くは抗拒不能に乗じ、又はこれをして心神を喪失せしめ、若しくは抗拒不能ならしめて、姦淫したる者についても、前条の例による旨を規定している
  • かかる法条の排列から見れば、苟も暴行又は脅迫をもって、婦女を姦淫した者は、前条に該当するのであって、従って、その暴行又は脅迫によって、婦女をして心神を喪失せしめ、若くは抗拒不能ならしめて姦淫した者も、また当然これに包含せられるものと解すべきである
  • 従って、原判決がその認定事実に関して、刑法第177条を適用したのは正当である

と判示し、犯人自身が被害者に暴行・脅迫を加えて抗拒不能又は心神喪失の状態にし、強制性交した場合は、強制性交等罪が成立するとしました。

 なお、もともと抗拒不能又は心神喪失の状態にあった被害者に対し、抗拒不能又は心神喪失の状態にあるのに乗じて強制性交した場合には、準強制性交等罪が成立します。

 また、抗拒不能の状態にあった被害者に対して、その上で、更に被害者の反抗を著しく困難ならしめるに足りる暴行を加えて強制性交した行為について、強制性交等罪が成立するとした以下の判例があります。

津地裁判決(平成4年12月14日)

 裁判官は、

  • 被害者であるMは、睡眠剤を服用し、その効果によって、被害にあった際の記憶もとぎれとぎれであり、翌早朝においても、ようやく這って歩ける程度であり、被害当時抵抗することは極めて困難な状態であったものの、被告人は、そのことを認識せず、強いて姦淫を遂げるため、深夜就寝中のひとり暮らしの被害者に対し、粘着テープで猿ぐつわをかませ、その両手首を後手に緊縛するなど、一般人をして反抗を著しく困難ならしめるに足りる暴行を加えており、かつ右暴行によって被害者の反抗抑圧の状態をますます増大せしめたのであるから、強姦(既遂)致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)が成立すると解するのか相当である

と判示しました(強制性交の際に被害者に傷害を負わせた事案なので、強制性交等致傷罪を認定)。

④ 住居侵入罪との関係

 住居侵入(刑法130条)を手段として強制性交等罪を犯した場合、住居侵入罪と強制性交等罪は、手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯となります。

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治44年5月23日)

 住宅に侵入して強制性交した事案で、裁判官は、

  • 家宅侵入の行為は、強姦罪(現行法:強制性交等罪)の手段にして刑法第54条第1項により、一罪として処分すべきものである

と判示し、住居侵入罪と強制性交等罪は、手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯になるとしました。

⑤ 逮捕監禁罪との関係

 強制性交等罪と逮捕監禁罪刑法220条)との関係について説明します。

 逮捕・監禁を手段として、強制わいせつ罪又は強制性交等罪を犯した場合には、逮捕・監禁行為が、そのまま強制わいせつ罪の手段である暴行となっているような場合には、観念的競合が成立する余地もありますが、通常は併合罪と解すべきとされます。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年7月12日)

 裁判官は、

  • 刑法第54条にいわゆる犯罪の手段とは、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられる行為をいうのであり、また犯罪の結果とはある犯罪より生ずる当然の結果を指すと解すべきものであるから、牽連犯たるにはある犯罪と、手段若くは結果たる犯罪との旨に密接な因果関係のある場合でなければならない
  • 従って、犯人が現実に犯した二罪がたまたま手段結果の関係にあるだけでは牽連犯とはいい得ない
  • そして、本件の不法監禁罪と、強姦致傷罪(現行法:強制性交等罪)とは、たまたま手段結果の関係にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人らの犯した不法監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等罪)は、牽連犯ではない
  • 従って、右二罪を併合罪として処断した原判決は、法令の適用を誤ったものではない

と判示し、監禁罪と強制性交等罪とは、通常は手段と結果の関係にないので、牽連犯にならず、併合罪になるとしました。

最高裁判決(平成17年4月14日)

 この判例は、恐喝の手段として行った監禁について、恐喝罪と監禁罪の両罪が成立し、両罪は併合罪となるとしました。

 恐喝罪と監禁罪の事案ですが、考え方は、強制性交等罪と監禁罪の場合も同様です。

 裁判官は、

  • 恐喝の手段として監禁が行われた場合であっても、両罪は、犯罪の通常の形態として手段又は結果の関係にあるものとは認められず、牽連犯の関係にはないと解するのが相当である

とし、恐喝罪と監禁罪は牽連犯の関係にはならず、併合罪の関係になるとしました。

仙台高裁判決(昭和40年4月8日)

 この判例は、婦女を不法監禁し、その継続中に強姦の犯意を生じて実行された場合も、両者は強姦実行の時点でたまたま重なり合うにすぎないから、1個の行為ではなく、別個独立の2個の行為と解すべきであり、右不法監禁行為と強姦行為とは想像的競合(※観念的競合のこと)の関係にあるのではなく、併合罪の関係にあるものというべきであるとしました。

監禁罪と強制性交等致傷罪とが観念的競合の関係にあるとされた事例

 監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪 刑法181条2項)とが観念的競合の関係にあるとされた事例があるので紹介します。

広島地裁判決(昭和52年5月30日)

 裁判官は、

  • 被告人らが、被害女性を自動車後部座席に強引に座らせ、同車を発車させた時点に、強姦の着手行為があったと認めるのが相当である
  • 年若い女性が深夜、車に閉じ込められ、しかも、その車が発進するときは、それだけでも脱出が著しく困難となり、かつ畏怖の念をつのらせるのが通常であるうえ、本件においては、乗車させられた車内に男4人が座乗し、かつ、その内の2名に両脇から挾まれて事実上脱出不能にされたのであるから、車の発進によって、被害者が反抗し救援を求めることが物理的に不可能となるのみならず、被害者は当然に強姦の危険を直感し畏怖の念を生じるとともに、抵抗の無力さを悟り抵抗心、反抗心を喪失するに至ったものと認定するのはさほど困難ではなく、また、かような現実の事態を把握し、あわせて被告人らの強姦の犯意の強さを考慮するならば、かかる行為の段階で、既に被害者の反抗を著しく抑圧するに足る脅迫行為(すなわち強姦の着手)の存在が認められるからである
  • ところで、右強姦の着手時点が、同時に本件監禁の着手に当たることは多言を要しない
  • そして、強姦行為の終了とほぼ時を同じくして被害者の拘束は事実上解かれ、その後帰途についているのであるから、監禁行為の終了時もそのときと認定して妨げない
  • 以上の認定によれば、本件強姦致傷(現行法:強制性交等致傷)と監禁は、行為の主体、客体ともに同一人であり、かつ犯行の着手、終了の全過程において時間的、場所的に完全に合致するところから、文字通り自然的観察のもとにおいても社会通念上「1個の行為」によって実現されたものといわなければならない
  • したがって、当裁判所は、本件判示の所為を、刑法54条1項前段観念的競合と解するを相当とするものである

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和53年6月29日)

 この判例も、監禁罪と強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)とが観念的競合の関係にあるとされた事例です。

 裁判官は、

  • 頭初の脅迫が、監禁罪の実行の着手であると同時に強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)の実行の着手でもあると解され、監禁と強姦の両行為が、時間的・場所的にも全く重なり合うのみならず、監禁行為そのものも強姦の手段たる脅迫行為をなしている場合においては、行為を、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上1個の評価を受けるか否かの観点にたって考察すると、右両罪は観念的競合の関係にあると解するのが相当である

と判示しました。

⑥ わいせつ目的略取・誘拐罪との関係

 わいせつ目的略取・誘拐罪(刑法225条)と強制性交等罪との関係について説明します。

 わいせつ目的略取・誘拐罪(刑法225条)と強制性交等罪は、通常、わいせつ目的略取・誘拐行為と強制性交行為が手段と結果の関係になるので、両罪は牽連犯の関係になります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

 以下の判例は、強制わいせつ罪の事案ですが、考え方は強制性交等罪の場合も同じになります。

東京高裁判決(昭和45年12月3日)

 この判例は、強制わいせつの犯行が、わいせつの目的をもって誘い出したその場所において行われている場合には、そのわいせつ誘拐と強制わいせつとは、刑法54条1項後段で規定する牽連犯の関係にあるとしました。

 裁判官は、

  • わいせつ誘拐と強制わいせつとは、通常、手段・結果の関係にあり、従って、刑法第54条第1項後段で規定する牽連犯の関係にあるものと解せられる

と判示しました。

⑦ 強盗罪との関係

 強盗罪(刑法236条)と強制性交等罪との関係について説明します。

 女子を強制性交した者が、強制性交後に強盗の犯意を生じ、その畏怖に乗じて金品を強奪した場合には、強制性交等罪のほか強盗罪が成立し、両者は併合罪になります。

 なお、強制性交後に強盗の犯意を生じた点がポイントになります。

 強制性交の際に強盗の犯意が生じている場合は、強盗・強制性交等罪(刑法241条)が成立します(強盗・強制性交等罪の説明については前の記事参照)

 参考となる判例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和24年12月24日)

 裁判官は、

  • 刑法第241条前段の強盗強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)は、強盗犯人が強盗の機会において婦女を強姦することをその要件とする
  • しかるに、原判決は、被告人が被害女性Aを強姦する際、強盗の犯意があった事実は認定しなかったばかりでなく、却って同女を強姦し終った後、強盗の犯意を生じ、同女からその所持金15円を強奪したという事実を認定しているのである
  • しからば、被告人の所為は右強盗強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)に該当しないことは明らかである
  • もっとも、この点について原判決は「被告人の行為は婦女を強姦し、その畏怖に乗じて金品を強取したもので、犯情の点において、他人を畏怖させて金品を強取したものが、その畏怖に乗じ婦女を強姦した場合といささかも異らないから強盗強姦罪(強盗・強制性交等罪)を構成する」と説明するのであるが、それは原審の誤れる見解といわねばならぬ
  • けだし、被告人の行為が強盗強姦罪(強盗・強制性交等罪)を構成するかどうかということと、その犯情が強盗強姦罪と同じであるということとは自ずから別の事柄である
  • 原審が婦女を強姦した後、その畏怖に乗じて、更らに同女から金員までも強奪した被告人の本件犯行を、その情状において強盗犯人が婦女を強姦した場合といささかも異らないとするものであれば、その点は被告人に対する量刑上十分に考慮すれば足りるのである
  • 被告人の本件所為は強姦罪(現行法:強制性交等罪)と強盗罪との併合罪をもって処断すべきである

と判示しました。

⑧ 覚醒剤取締法違反(覚せい剤の不正使用罪)との関係

 強制性交の手段としての暴行・脅迫の一方法として、被害者に対する覚せい剤の注射が用いた行為について、強制性交等罪と覚醒剤取締法違反(覚せい剤の不正使用罪)との併合罪になるとした判例があります。

東京高裁判決(昭和57年6月28日)

 裁判官は、

  • 原判決は、犯行の際、被告人らが、H女に覚せい剤を注射して使用した所為と強姦の所為とを併合罪として処断しているが、覚せい剤の不正使用は、それが強姦罪における暴行・脅迫の一方法として行なわれたものであっても、通常手段・結果の関係にないことはもちろんのこと、これらの犯罪は、その立法趣旨、保護法益、犯罪の罪質、態様を異にするものであるから、原判決が、これらを併合罪として処断したことは正当である

と判示しました。

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