法律(刑法)

詐欺罪(79) ~「財物詐取罪(1項詐欺)と詐欺利得罪(2項詐欺)の成立関係 ~1項・2項詐欺を同時に行った場合、詐欺罪の包括一罪が成立する~」を判例で解説~

財物詐取罪(1項詐欺)と詐欺利得罪(2項詐欺)の成立関係

 詐欺罪(刑法246条1項・2項)について、1項の詐欺を財物詐取罪(1項詐欺)と呼び、2項の詐欺を詐欺利得罪(2項詐欺)と呼びます。

 ここで、1個の人を欺く行為によって、1項詐欺と2項詐欺を同時に行った場合、どのように法律が適用されるかについて説明します。

 この場合は、刑法246条に該当する単一の詐欺罪(詐欺罪の包括一罪)を構成するというのが判例の立場です。

 具体的には、刑法246条1項の詐欺罪と2項の詐欺罪の2つの詐欺罪が成立するのではなく、1項と2項を包括して刑法246条の1個の詐欺罪が成立することになります。

 逮捕状などの捜査書類、起訴状、判決書には、「刑法246条1項・2項」と記載するのではなく、「刑法246条」とだけ記載し、刑法246条を包括的に適用する取扱いになります。

 この点について、判例を紹介します。

大審院判決(大正4年4月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 1個の詐欺行為をもって財産上不法の利益を得、かつ財物を騙取したるときは、刑法246条に該当する単一なる詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年12月8日)

 この判例で、裁判官は、

  • 詐欺罪における不法の利得は、実際上において、財産上不法の利得の生ずべき事実関係の存するをもって足り、その利得のよって生ずる法律行為が有効なると否とは、本罪の成立に影響を及ぼすものにあらず
  • 同時又は連続の行為により刑法第246条第1項第2項前段及び後段の罪を併せて犯したるときは、これに対し、包括的に刑法第246条を適用するをもって足る

と判示しました。

大審院判決(大正7年2月12日)

 この判例で、裁判官は、

  • 同一の被害者に対する1個の行為にして、同時に刑法第246条第1項及び第2項に触れる場合には、1個の詐欺罪を構成するものとす

と判示しました。

保険金詐欺の場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係

 保険金詐欺の場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係について、以下の判例があります。

 いずれの判例も1項詐欺と2項詐欺が競合する場合は、刑法246条1項・2項がそれぞれ適用される考え方ではなく、包括一罪として、刑法246条の1個の詐欺罪が適用されます。

大審院判決(大正5年5月18日)

 この判例で、裁判官は、

  • 1個の詐欺手段により、2回に保険契約書及び同契約証書を騙取したる行為が、爾後、保険金を騙取せんとして、その目的を遂げざりし行為と共に、金員騙取の包括的意思の発動に出でたるときは、その全体を包括的に観察し、一罪をもって処断せざるべからず
  • 而して、この場合には、包括的詐欺行為につき、既遂の擬律をなすことを相当とす

と判示し、財物詐取罪(1項詐欺)の既遂を利用して行った詐欺利得罪(2詐欺)が未遂にとどまった場合、財物詐取罪(1項詐欺)の既遂が一罪、詐欺利得罪(2詐欺)の未遂が一罪成立するのではく、1項と2項を区別することなく、1項と2項を包括して刑法246条の1個の詐欺罪の既遂罪が成立するとしました。

大審院判決(大正5年10月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 人を欺罔し、生命保険会社を欺き、保険証券を騙取せしめたる後、被保険者の死亡するに至り、保険金の支払を求めしめたるも、その目的を達せざる行為は、包括的に観察し、一罪をもって処断すべく、保険金騙取未遂をもって保険証書騙取罪の結果とみなし、これを不問にふすべきものにあらず

と判示し、刑法246条の1個の詐欺罪が成立するとしました。

 つまり、刑法246条1項の詐欺の既遂罪と、同条2項の詐欺の未遂罪の2つの詐欺罪が成立するものではないということです。

大審院判決(大正12年12月25日)

 保険会社の嘱託医に、被保険者の健康状態について真実に反した診査報状(診断書)を作成させ、これを利用して保険会社を欺き、保険契約を締結させた場合は、会社が商法429条1項但書(昭和13年法律72号による改正前のもの)の規定によって保険契約を解除することができるかどうかにかかわらず、詐欺罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 保険証券は、財産権の目的たることを得べきものなれば、これをもって詐欺罪の目的物となすに妨げなきものとす
  • 保険証券騙取の行為とその保険金騙取未遂の行為とが金員騙取の目的に出たるときは、その全体を包括的に観察し、一罪として詐欺既遂の擬律をなすべく、詐欺未遂の法条を適用すべきものにあらず
  • 保険会社の嘱託医をして、被保険者の健康状態につき、真実に反する診査状を作成せしめ、これを利用して保険会社を欺罔し、保険契約を締結せしめたるにおいては、会社が商法第429条但書き規定により保険契約を解除することを得ると否とにかかわらず、詐欺罪は成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和6年12月18日)

 保険金詐欺の目的で、まず保険契約書と契約証書を詐取し、続いて保険金を詐取しようとしが、その目的を遂げることができずに詐欺未遂に終わった事案で、裁判官は、

  • 共に保険金騙取の包括的意思の発動による実行行為に属し、ただ発展の段階を異にせるに過ぎざれば、これを分離して各行為につき各別に擬律すべきにあらず
  • 全体を包括的に観察して一罪をもって処断すべく
  • 包括的意思による詐欺の既遂行為及びその未遂行為が包括的一罪を構成する場合においては、既遂の行為が最終目的たる行為にあらざるも、最終の目的行為にして未遂に終わりたるときは、包括的詐欺行為につき、既遂の擬律をなすをもって相当とす

と判示し、保険証券を詐取し、次いで保険金を詐取しようとしたが未遂にとどまった場合は、刑法246条の詐欺の既遂罪の包括一罪が成立するとしました。

小荷物切符を取得した場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係

 小荷物切符(鉄道で手荷物を送る際の預かり証)を取得した場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係について、以下の判例があります。

 1項詐欺と2項詐欺が競合する場合は、刑法246条1項・2項がそれぞれ適用される考え方ではなく、刑法246条1個が包括一罪として適用される考え方になります。

大審院判決(昭和9年12月18日)

 鉄道省を欺いて運送契約を締結し、その輸送中に荷物を壊し、損害金名下に要償額を詐取しようとして、不当な要償額を表示した小荷物切符の交付を受けたが、その後、要償額を取得することに失敗した事案です。

 人を欺くことの結果、小荷物切符を受領した行為と損害の賠償を求めて金員獲得の目的を遂げなかった行為について、裁判官は、

  • 金員詐取の包括的意思の発動に出でたるときは、その全体を包括的に観察し、一罪としてこれを処断すべきものとす
  • 故にこの場合には包括的詐欺罪の対象たる小荷物切符の取得につき、既遂の擬律をなすをもって相当とすべく要償額を得ざりし点につき、詐欺未遂の法条を適用すべきものにあらず

と判示しました。

訴訟詐欺の場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係

 訴訟詐欺の場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係について、以下の判例があります

 1項詐欺と2項詐欺が競合する場合は、刑法246条1項・2項がそれぞれ適用される考え方ではなく、刑法246条1個が包括一罪として適用される考え方になります。

大審院判決(昭和6年2月20日)

 金員詐取の目的で詐欺の訴訟行為によって裁判所を欺き、有利な確定判決を得、これに基づいて相手方から金員を詐取した場合、確定判決による不法の利益の取得と爾後の金員の詐取とを包括的に観察して、金員詐取の一罪として処断すべきであると判示しました。

1個の人を欺く行為により被害金品の給付の約束と交付をさせた場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係

 1個の人を欺く行為により被害金品の給付の約束と交付をさせた場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年5月23日)

 1個の人を欺く行為により、まず被害者から代金債権を取得し、さらに、その債権に基づいて内金を交付させた事案で、裁判官は、

  • 債権の取得と金円の取得とは、これを包括して第246条の一罪をもって論ずべく、債権を取得したる時において同条第2項の犯罪を構成するものとし金円の取得をもって、その当然の結果として罰すべきものにあらずというを得ず

と判示し、刑法246条の詐欺が包括一罪で成立するとしました。

刑法246条の詐欺が包括一罪として成立しない場合の判例

 なお、上記各判例の結論を一般化するのは相当でないという考え方もあります。

 その理由は、財物詐取罪(1項詐欺)が成立するときに、財物の交付を約束させたという点において直ちに詐欺利得罪(2項詐欺)の既遂を認めると、財物詐取罪(1項詐欺)と詐欺利得罪(2項詐欺)の区別を定めた意義がなくなるためです。

 財物取得罪(1項詐欺)が成立する場合か、詐欺利得罪(2項詐欺)が成立する場合かは、その行為の態様において財物とそれ以外の利益とのいずれが取得の重点となっているかによって定まると考えられています。

 犯人が、被害者に対し、財物の移転の意思表示をなし、次いで財物が現実に犯人に交付される型の取引を利用した詐欺の場合は、被害者の財物移転の意思表示がそれ自体で独立の財産的価値のある権利を犯人に与えるものである場合を除き、一般には、意思表示だけでは詐欺利得罪(2項詐欺)は成立せず、むしろこの段階では、財物詐取罪(1項詐欺)の未遂と解すべきとされます。

 詐欺罪が、財物詐取罪(1項詐欺)と詐欺利得罪(2項詐欺)の両方に該当しそうな場合であっても、必ずしも刑法246条の詐欺罪の包括一罪として認定されるわけではありません。

 この点について以下の判例があります。

大審院判決(明治43年5月2日)

 債権者を欺いて債務の免除を得たのち、借用証書の交付を受けた場合につき、借用証書の交付を受けたのは、債務の免除を得た結果当然受け取るべきものを受け取ったにすぎないから、別に詐欺罪(借用証書を詐取したとする詐欺取得罪(1項詐欺))として処罰しうべきものでないとして、債務の免除を得た点について、詐欺利得罪(2項詐欺)のみの成立を認めました。

 裁判官は、

  • 債権者を欺罔して、債務の免除を得たる後、借用証書の交付を受けるも、その所為は、債務免除の結果、当然受け取るべきものを受け取りたるに過ぎざれば、別に詐欺罪を構成せず

と判示しました。

大審院判決(大正2年10月30日)

 貸借名義で金銭を詐取した行為を財物詐取罪(1項詐欺)とした以上、その後、詐取金について支払の猶予を受けた行為は、新たに財産上の法益を害することがないから、その行為を独立の詐欺利得罪(2項詐欺)として問擬(もんぎ)すべきでないとしました。

 裁判官は、

  • 既に金員騙取の行為をもって、詐欺罪なりとなしたる以上は、その後、右騙取金につき、支払猶予を受けたる行為あるも、新たに財産上の法益を害するものあることなければ、行為をもって独立なる詐欺罪に問擬(もんぎ)すべきものにあらず

と判示しました。

無銭宿泊・飲食の場合の1詐欺と2項詐欺の成立関係

 無銭宿泊・飲食は、代金の支払を免れた時ではなく、宿泊・飲食したときに既遂になるとされています(最高裁決定 昭和30年7月7日)。

 飲食物の提供だけのときは、財物詐取罪(1項詐欺)の既遂であり、接客行為を伴ったときには、1個の人を欺く行為によって財物を詐取し、不法の利益を得たことになりますが、この場合は包括して刑法246条の1個の詐欺罪と解すべきとされます。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和33年12月25日)

 旅館で飲食の上、宿泊した事案について、一審判決が、刑法246条2項を適用して処断したことについて、高等裁判所の裁判官は、

  • 刑法第246条1項、2項の包括一罪として処断すべきであるから、原判決が同法第2項のみに問擬(もんぎ)したのは法令の適用を誤ったものである

と判示しました。

参考事項

 ちなみに、無銭飲食のあとで相手方から代金支払の請求を受け、人を欺く手段を講じて相手方に代金支払を一時猶予する意思表示をさせ、そのまま立ち去って代金の支払を免れた場合は、全体を包括して刑法246条の1個の詐欺罪が成立するとされます。