刑法(総論)

刑罰(4)~「拘禁刑・拘留の執行」「未決勾留(裁定算入・法定通算)とは?」「仮釈放とは?」「仮出場とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

拘禁刑・拘留の執行

 自由刑(拘禁刑・拘留)は、いずれも刑事施設において、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に定めるところに従って執行されます(刑法12条2項13条2項16条)。

 これら自由刑(拘禁刑・拘留)の執行を受ける者を受刑者といいます。

刑の起算日

1⃣ 刑期は、裁判が確定した日から起算されるのが原則です。

 逮捕・勾留により身柄を拘束され、既に刑事施設に収容されている者は、裁判が確定した日から刑が起算されます。

 これに対し、逮捕・勾留されておらず、身柄が拘束されていない者は、裁判が確定した日以降に検察庁に出頭し、検察官の刑の執行指揮を受けて刑事施設に収容されます。

 この裁判が確定した日から刑事施設に収容される日より前の日数(実際に拘禁されていない日数)は、裁判が確定した後であっても、刑期に算人されません(刑法23条)。

 裁判が確定した際に保釈中である者については、

  • 刑の執行のための呼出し(刑訴法484条)を受け、刑事施設に収容された日から刑期が起算される
  • 刑の執行のための呼出しに応じず、収容状の執行(刑訴法489条)により強制力をもって刑事施設に収容された場合は、収容された日から刑期が起算される

となります。

2⃣ 受刑の初日は、時間にかかわらず、1日の刑期として計算されます(刑法24条1項)。

3⃣ なお、受刑終了による釈放は、刑期終了の日の翌日に行われます(刑法24条2項)。

刑期に算入されない日数

 以下の日数は刑期に参入されません。

  • いったん刑期が加算された後逃走した場合における逃走中の期間
  • 刑の執行停止の期間(刑訴法480条
  • 仮釈放が取り消された場合の仮釈放の日数

未決勾留とは?

 未決勾留とは、判決において、刑と一緒に言い渡されるものであり、

逮捕・勾留された被告人について、その捜査又は裁判の過程において生じた未決勾留の日数(逮捕・勾留の日数)の全部又は一部が当該刑に算人された日数

をいいます。

 例えば、窃盗罪を犯し、拘禁刑1年の刑が言い渡された場合で、逮捕・勾留された日数が100日であり、裁判官が100日のうち50日を未決勾留として刑に算入するという判断をした場合、判決主文において、被告人に対し、「拘禁刑1年、未決勾留日数50日を刑に算入する」といった判決が言い渡されます。

 このような未決勾留日数が含まれる判決が言い渡されると、被告人には、拘禁刑1年のうち50日は刑を終えたものしてみなされ、実際に刑務所に服役する日数は、311日(365日-50日)となります。

 これを「未決勾留日数の本刑通算の制度」といいます。

未決勾留日数の本刑通算の制度の意義

 逮捕・勾留は、被告人(被疑者)の自由をはく奪し、それらの者に苦痛を与えるものである点において自由刑の執行に類似しています。

 そのため、刑事司法における実質的公平の見地に基づいて、一定の場合に未決勾留日数を本刑に算入あるいは通算できることとし、その算入又は通算された日数について刑の執行があったと同様の結果とするものです。

 この制度には、「裁定算人」と「法定通算」とがあります。

裁定算入とは?

 裁定算入は、

裁判所の裁量によって、判決主文において刑の言渡しと同時に、未決勾留日数の全部若しくは一部を本刑に算入すること

をいいます。

法定通算とは?

 法定通算は、

刑訴法495条に規定する事由がある場合に、第一審判決言渡しの日以降の勾留日数を法律上当然に通算すること

をいいます。

 裁定算入とことなり、法廷通算は未決勾留日数を本刑に法定通算するかどうかの裁量権は裁判所に与えられておらず、本刑が執行される際、法律上当然に本刑に算人されるものです。

 法定通算される未決勾留日数は、以下①~③の日数です。

① 上訴提起期間中の未決勾留の日数

 上訴提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部本刑に通算されます(刑訴法495条1項)。

② 上訴申立後の未決勾留の日数

 上訴申立後の未決勾留の日数は、

  • 検察官が上訴を申し立てたとき

   又は

  • 検察官以外の者が上訴を申し立てた場合において原判決が破棄されたとき

において、その全部の日数が本刑に通算されます(刑訴法495条2項)。

※「原判決破棄」とは、控訴審上告審が、原判決に不服があるとして上訴があった場合に、上訴に理由があると認め、原判決を取り消すこと、または判決を自ら下すことを意味します。

 破棄した場合の措置には、破棄差戻し(原審に差し戻す)、破棄移送(他の裁判所に移送する)、破棄自判(控訴審や上告審が自ら判決を下す)の3種類があります.

③ 上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留の日数

 上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留は、上訴中の未決勾留日数に準じて通算されます(刑訴法495条4項)。

 具体的には、上訴裁判所において原判決を破棄して、破棄差戻し(原審に差し戻す)、又は破棄移送(他の裁判所に移送する)の判決があった場合に、

破棄判決の日から差戻し、又は移送を受けた裁判所における判決言渡しの日の前日までの拘禁日数

が未決勾留の日数として通算されます。

未決勾留日数に関する判例・裁判例

1⃣ 未決勾留が法定通算されるべき場合には、刑法21条を適用し、法定通算部分と重複する日数につき、未決勾留日数の裁定算入を判決で言い渡すべきではないとした判例があります。

最高裁判決(昭和46年4月15日)

 裁判所は、

  • 控訴審が被告人の控訴に基づき第一審判決を破棄する場合には、控訴申立後の未決勾留日数は、刑訴法495条2項2号により、判決が確定して本件の執行される際当然に全部本件に通算されるべきものであって、刑法21条により判決においてその全部または一部を本刑に算入する旨の言渡をすべきでない

と判示しました。

2⃣ 本刑に算人できるのは、有罪とされた公訴事実についてなされた未決勾留日数に限るのが原則です。

 しかし、数個の公訴事実を併合して審理した場合には、無罪とされた公訴事実についての未決勾留日数でも、有罪とされた公訴事実についての本刑に算入することができます。

 これは、前者の公訴事実による勾留の効果が現実には後者の公訴事実についても及んでいることを理由としています。

 判例は以下のものです。

最高裁判決(昭和30年12月26日)

 裁判所は、

  • 裁判所が、同一被告人に対する数個の公訴事実を併合して審理する場合には、無罪とした公訴事実につき発せられた勾留状の執行により生じた未決勾留日数を、他の有罪とした公訴事実の本刑に算入することができるものと解するを相当とする

と判示しました。

3⃣ 起訴されなかった被疑事実について発せられた勾留状による拘禁が、起訴された罪の捜査、取調べ等に実質上利用されたとしても、その拘禁の日数を起訴された罪の本刑に算人することはできません。

 この点を判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和57年10月28日)

 裁判所は、

  • 刑法21条によって未決勾留日数を算入することが許される本刑とは、当該未決勾留の理由となった事実について科せられる刑を指すものであることはその文理上明らかであるから、起訴されなかった被疑事実について発せられた勾留状による拘禁がたとい起訴された罪の捜査取調に実質上利用されたとしても、その拘禁の日数を起訴され有罪となった罪の本刑に算入することは法律上許されないものと解するのが相当である

と判示しました。

4⃣ 未決勾留日数の起算日について、逮捕に引き続き勾留の請求がなされ、その請求の翌日以降に勾留状が発せられてその執行がなされたという場合は、勾留状の執行がなされた日から起算すべきであるとした判例があります。

最高裁判決(昭和43年7月11日)

 裁判所は、

  • 逮捕に引き続いて勾留の請求がなされ、その請求の日の翌日以降に勾留状が発せられその執行がなされた場合、刑法第21条によって算入の対象となる未決勾留日数は、勾留状の執行がなされた日からこれを起算すべきである

と判示しました。

4⃣ 既に別罪によって自由刑の執行を受けている者(受刑者)が、同時に他の罪で勾留されても、その日数を本刑に算人することはできないとした判例があります。

 つまり、受刑中の者については、未決勾留に当たる日数であっても、その日数は受刑期間であるのだから、未決勾留の日数として刑に算入し、刑期を短くする必要はないという考え方になります。

最高裁判決(昭和32年12月25日)

 裁判所は、

  • 被告人が勾留状の執行により未決勾留中、他の事件の確定判決により懲役刑の執行を受けるに至ったときは、懲役刑の執行と競合する未決勾留日数を本刑に算入することは違法である

と判示しました。

仮釈放とは?

1⃣ 拘禁刑の執行については、仮釈放の制度があります。

 仮釈放の制度とは、

受刑者を刑期満了前に条件付で釈放する制度

です。

 仮釈放は、拘禁刑に処せられ、

  • 有期拘禁刑については刑期の3分の1
  • 無期拘禁刑については10年

を経過した者で、改悛の情がある者に対し、行政官庁(地方更生保護委員会)の処分によって行われるものです。

 少年のとき拘禁刑の言渡しを受けた者については、少年法58条により、

  • 無期拘禁刑については7年
  • 第51条第2項の規定により言い渡した有期拘禁刑については、その刑期の3分の1
  • 第52条第1項又は同条第1項及び第2項の規定により言い渡した拘禁刑については、その短期の3分の1

を経過した者に対して仮釈放をすることができます。

2⃣ 仮釈放となった者は、保護観察に付されます。

 仮釈放の後、仮釈放を取り消されることなく残りの刑期に相当する期間を経過したときは、刑の執行が終わったことになります(刑法28条29条更生保護法33条以下)。

3⃣ 保護観察の期間は、残りの刑の期間と同じ期間となります。

 無期拘禁刑の場合は、恩赦がない限り死亡するまで保護観察を受けることになります。

 ただし、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者は、仮釈放後10年を経過したとき刑の執行を受け終わったものとされるので(少年法59条1項)、保護観察期間も仮釈放後10年となります。

仮出場とは?

 仮出場とは、

  • 拘留の執行を受けている者
  • 罰金・科料の完納ができないため労役場に留置されている者

が、一定の条件のもと、刑事施設(拘留場、労役場)から釈放される制度です。

 刑期に関係なく認められ、保護観察に付されない点で「仮釈放」と異なります

 仮出場は、情状により、いつでも、行政官庁(地方更生保護委員会)の処分によって行われます(刑法30条更生保護法16条33条以下)。

 仮出場には取消の制度がないので、仮出場を許された者は、そのときに残余の留置を免除されることになると解するのが一般です。

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