刑法(強盗罪)

強盗罪(33) ~他罪との関係⑥「強盗罪と詐欺罪との関係」を判例で解説~

強盗罪と詐欺罪との関係

 強盗罪(刑法236条)と詐欺罪(刑法246条)との関係について説明します。

 強盗罪と詐欺罪とで、罪数の問題となるのは、

  • 金品又は財産上の利益を詐取した後に、時間的に接着して、その代金の支払を免れるために反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を加えた場合
  • 始めから強盗利得罪(2項強盗)の意思で、詐欺的手段で財物の提供を受けた後に、強盗利得罪(2項強盗)を犯した場合

です。

 結論として、上記のようなケースの場合、

  • 詐欺罪と2項強盗罪の成立を認めつつ、重い2項強盗罪の包括一罪処断する

というのが、最高裁の裁判官が出した答えになります。

最高裁決定(昭和61年11月18日)

 事案は、甲と乙が(乙が被告人)が、当初は丙を殺害して、その所持する覚せい剤を強取することを計画したが、その後計画を変更し、共謀の上、まず甲において、覚せい剤取引の斡旋かこつけて丙をホテルの一室に呼び出し、別室に買主が待機しているように装って、覚せい剤の売買の話をまとめるために現物を買主に見せる必要がある旨申し向けて丙から覚せい剤を受け取り、これを持って同ホテルから逃走した後、間もなく、乙が丙のいる部屋に赴き、丙を拳銃で狙撃したが殺害の目的を遂げなかったというものです。

 裁判官は、本件覚せい剤の取得行為が窃盗罪と詐欺罪のいずれに当たるのかにつき結論を留保した上で、

  • 前記の本件事実関係自体から、被告人(乙)による拳銃発射行為は、丙を殺害して同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべきである(暴力団抗争の関係も右行為の動機となっており、被告人(乙)については、こちらの動機の方が強いと認められるが、このことは、右結論を左右するものではない)
  • 先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ、前記事実関係にかんがみ、本件は、その罪と(二項)強盗殺人未遂罪のいわゆる包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものと解するのが相当である

と判示しました。

 この最高裁判決と同様の結論を導き出した最近の判例として、以下のものがあります。

大阪地裁判決(平成18年4月10日)

 この判例は、被告人がガソリンを詐取した後、その代金の支払を免れるため傷害を負わせた事案について、詐欺罪と強盗致傷罪が成立し、両罪は包括一罪になるとしました。

 まず、強盗致傷罪の成否について、裁判官は、

  • 弁護人は、事実関係については争わないが、被告人が既に財物であるガソリンを詐取している以上、更にこれを強取したり、財産上不法の利益を得ることは不可能であり、強盗致傷罪の成立する余地はないから、傷害罪が成立するに過ぎない旨主張する
  • 被告人らが、ガソリンスタンド店員を欺いて給油を受けた時点で、財物に対する詐欺罪が成立する
  • しかしながら、被告人がガソリンを詐取した後も、その相手方である被害者には、ガソリン代金支払請求権やガソリンの返還請求権、これに代わる損害賠償請求権等が存することは明らかである
  • そして、ガソリン代金支払等を請求する被害者に対して、その支払を免れる目的で、新たに別個の手段である暴行を振るい、これによってほぼ確定的に代金支払を免れるという利益を得ようとしたものであるから。ガソリン詐取とは別個の財産的法益の侵害があったと評価すべきである
  • したがって、強盗致傷罪が成立する

と判示しました。

 次に、罪数について、裁判官は、

  • 検察官は、詐欺罪と強盗致傷罪について、併合罪の関係に立つと主張する
  • 詐欺罪の財物と、強盗致傷罪における財産上の利益は異なっており、前者によって後者が評価し尽くされていないことは既に論じたが、ガソリンの取得とその代金の支払を免れるという利益が法益面で密接に関連していることも明らかである
  • また、詐欺が既遂に達した直後、ガソリンスタンドから車両を発進させて強盗致傷の犯行に及んでいるから、両行為の時間的・場所的接着性があり、同一の機会になされたこともまた明らかである
  • このように本件は、ガソリンを詐取したことに引き続き、ガソリン代金の支払いを免れようと暴行に及んだという事象であり、両行為間に、密接な関係があることが明らかな場合であるから、1回の処罰をもって臨むことが相当であり、重い強盗致傷罪の刑で処断すべきである
  • なお、検察官は、本件事案と異なり、当初からガソリンを詐取して逃走の際に店員に暴行に及ぶ意思を有していた場合においては、詐欺罪と強盗罪が包括一罪となることを認めるかのようであるが、ガソリンの詐取後に、強盗の犯意を生じた場合には併合罪となるというのであれば、両者の犯情の差に鑑み、処断刑の不均衡が生じるといわざるを得ない
  • したがって、詐欺及び強盗致傷の両行為は、包括一罪の関係にあると解すべきである

と判示しました。

大阪地裁判決(平成20年8月8日)

 被告人が、タクシーの無賃乗車後、その代金を請求しようとしたタクシー運転手に対し、タクシー料金の支払を免れようとして、タクシー運転手に暴行を加え、死にいたらしめた事案です。

 この判例は、被告人が、飲酒の上、共犯者らと共謀して行った、タクシーの無賃乗車及び無銭飲食の事案、かつ、被告人が単独で暴行した事案及び被告人が無賃乗車に引き続いて料金の支払いを免れるために行ったタクシー運転手に対する強盗致死の各事案において、無賃乗車による詐欺罪と強盗致死罪とが包括して(2項)強盗致死1罪となるとしました。

 裁判官は、

  • 本件は、被告人らが、詐欺により、タクシー料金の支払をせずに降車して、目的地までのタクシー乗車という財産上不法の利益を得た直後、被害者であるIが、上記タクシー料金の支払を請求しようとしてタクシーのエンジンをかけたまま、被告人がいるB方の前まで来たため、被告人において、タクシー料金の支払請求を免れようとして暴行に及んだことが認められる
  • そうすると、詐欺罪と、強盗致死罪については、無賃乗車とその料金債務を免れることの法益面での密接な関連性、及び、2つの行為の時間的・場所的近接性が存し、同一機会に継続して行われたものと認められる
  • このような事実関係に照らせば、詐欺行為と強盗致死の行為について、いわゆる包括一罪が成立するというべきである

と判示しました。

学説

 学説において、以前は、詐欺行為と強盗行為が極めて接着した時点において行われた場合には、包括して強盗一罪が成立するが、それ以外の場合には、詐欺罪がすでに成立している以上、当初から暴行・脅迫を加えて代金の支払を免れる意思であっても、強盗の予備的段階として吸収されることなく併合罪が成立するとする立場が有力でした。

 しかし、最近は、上記判例のように、重い強盗罪の包括一罪が成立するとの立場が通説になってるといえます。

次の記事

強盗罪(1)~(42)の記事まとめ一覧