刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(16) ~罪数②「名誉毀損罪と①侮辱罪、②信用毀損罪、③公職選挙法違反235条の罪との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

名誉毀損罪と他罪との関係

 名誉棄損罪(刑法230条)と

  1. 侮辱罪刑法231条
  2. 信用毀損罪刑法233条
  3. 公職選挙法235条の罪

との罪数関係を説明します。

① 侮辱罪との関係

 名誉毀損罪と侮辱罪(刑法231条)は、法条競合の関係にあり、名誉毀損罪が成立する場合には侮辱罪は成立しません。

 名誉毀損罪と侮辱罪は、人の名誉、即ち人格的価値に対する攻撃である点において同一の罪質をもつことから、法条競合の関係になります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正3年11月26日)

 裁判官は、

  • 1個の文章をもって人を非議する者が侮辱の語を交えて悪事を摘示し、これを公表してその名誉を毀損する場合は侮辱の語は事実の摘示と相俟って名誉毀損罪の態様を成すに過ぎずして、この場合は単に名誉毀損罪の罪名に触るるものとす

と判示しました。

② 信用毀損罪との関係

 信用は、経済的側面における人に対する社会的評価であり、本来、名誉の一部たり得るが、現行法は、信用毀損罪(刑法233条)を別に設け、信用を名誉の範囲から除外しています。

 したがって、純然たる信用毀損は信用毀損罪を成立させ、名誉毀損罪は成立させません。

 なお、1個の行為が、信用とそれ以外の名誉の双方を同時に侵害する場合には、 どちらの罪も単独ではその行為を評価し尽くすことができないので、両罪が観念的競合の関係で成立すると考えられます。

 参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(大正5年6月1日)

 裁判官は、

  • 名誉毀損罪は、事実の有無を問わず、公然これを摘示して人の社会上の地位又は価値に侵害を加えるによりて成立し、信用毀損罪は、虚偽の風説流布し、又は偽計を用いて人の支払資力又は支払意思を有することに対する他人の信頼に危害を加えるによりて成立すべきものとす
  • 虚偽の事実を流布したる行為は、場合により信用毀損及び名誉毀損の二罪に触れることあり、また単に信用毀損若しくは名誉毀損の一罪名に触れることあるものとす

と判示しました。

大審院判決(大正5年6月26日)

 裁判官は、

  • 刑法第233条にいわゆる信用は、同法第230条第1項にいわゆる名誉の一部に属するものに非ずして、その範囲圏外において独立の存在を有するものとす

と判示しました。

③ 公職選挙法235条の罪との関係

 公職選挙法235条は、

  1. 当選を得又は得させる目的をもって公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者の身分、職業若しくは経歴、その者の政党その他の団体への所属、その者に係る候補者届出政党の候補者の届出、その者に係る参議院名簿届出政党等の届出又はその者に対する人若しくは政党その他の団体の推薦若しくは支持に関し虚偽の事項を公にした者は、2年以下の禁錮こ又は30万円以下の罰金に処する
  2. 当選を得させない目的をもって公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮こ又は100万円以下の罰金に処する

と規定します。

 公職選挙法235条は、当選を得又は得させる目的、あるいは、当選を得させない目的をもって公職の候補者に関する虚偽の事項を公表する行為を処罰していますが、とくに当選させない目的で行われる行為は、同時に公職の候補者の名誉をも害することが多いです。

 そのような場合、公職選挙法違反と名誉毀損罪とは全く法益を異にすることから、両罪は観念的競合の関係で成立します。

 参考となる判例として以下のものがあります。

静岡地裁浜松支部判決(昭和40年3月5日)

 選挙候補者に当選を得させない目的で候補者及びその夫人の名誉を毀損する虚偽内容の文書を選挙人多数に流布した行為について、公職選挙法の虚偽事項公表罪と名誉毀損罪の成立を認め、両罪は観念的競合になるとしました。

次の記事へ

名誉毀損罪、侮辱罪の記事まとめ一覧