前回の記事の続きです。
器物損壊罪における被害者の同意・承諾
違法性阻却事由とは?
犯罪は
- 構成要件該当性
- 違法性
- 有責性
の3つの要件がそろったときに成立します。
犯罪行為の疑いがある行為をしても、その行為に違法性がなければ犯罪は成立しません。
この違法性がない事由、つまり違法性がないが故に犯罪が成立しないとする事由を「違法性阻却事由」といいます(詳しくは、前の記事参照)。
器物損壊罪の違法性阻却事由として論点としてあがる
が論点として上がります。
今回は、「被害者の同意・承諾」を説明します。
被害者の同意・承諾
被害者の同意ないし承諾があれば、損壊行為の違法性は阻却され、器物損壊罪は成立しません。
被害者の同意ないし承諾は、
被害者の自由な真意に出たものであること
が必要であるし、
行為者の行為時に存在すること
を要します。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
承諾が被害者の自由な真意に出たものではないとして違法性を阻却せず、器物損壊罪が成立するとした裁判例
福岡高裁判決(昭和30年9月28日)
被告人Aから店舗を賃貸してパチンコ店を開業した被害者Bが、家賃を滞納するようになり、Aは、Bが家賃を滞納し続けることに業を煮やし、Bに店舗を明け渡させるため、店舗に侵入し、パチンコ機械を取り外して損壊した事案です。
弁護人は、
- 被害者Bは、被告人Aに対し、「5月7日までに支払ができないときは、強制的に家を出されてもよい」と言ったのであるから、被告人Aの住居侵入・器物損壊行為は被害者Bの承諾に基づくものであるため、違法性を阻却し、住居侵入罪、器物損壊罪は成立しない
と主張しました。
この主張に対し、裁判官は、
- その言辞は被害者が被告人の弟らから強硬な交渉をうけ延滞家賃の支払を迫られた結果、これまで度重なる違約を続けて既に弁明の余地もないような破目に追い込まれていたため、窮余の一策として当てもないまま、つい心にもなく申し述べた遁辞であって、当時の状況上、多分に心理的強制をうけてなされた瑕疵ある意思表示で、自由な、真実の意思に合致するものとは認められない
とし、被害者Bの承諾は真実の意思ではないので違法性を阻却しないとして住居侵入罪、器物損壊罪が成立するとしました。
被害者の承諾があるものと信じていたことから器物損壊罪の犯意を欠き、器物損壊罪は成立しないとした裁判例
東京高裁判決(昭和28年9月7日)
被告人が、被害者Aが畑に種をまき栽培していた人参・じゃがいも・いんげんを抜根した事案です。
土地(畑)は被告人の母の所有であると主張する被告人が、村長を通じ、Aにおいて耕作物を抜根すること、もし抜根しなければ被告人において抜根してAに引き渡す旨申し入れた結果、村長及びAからその申入れに反対である旨の返事がなかったので、Aがこれに承諾したものと信じ、被告人自ら抜根したというものです。
裁判官は、
- 被告人が承諾を得たと信じて抜根したものである以上、(被告人がそのように信じたことについて軽率のそしりを免れることはできないとしても)少なくとも被告人は毀棄罪に対する犯意を欠いていたものと認めない訳にはいなかい
と判示し、被告人には器物損壊罪の犯意がないとして器物損壊罪の成立を否定しました。