刑法(建造物等損壊罪)

建造物等損壊罪(2) ~「建造物の定義」「建造物損壊罪の建造物と器物損壊罪の器物とを区別する基準」を説明~

 前回の記事の続きです。

建造物の定義

 建造物損壊罪(刑法260条)における「建造物」とは、

壁又は柱で支えられた屋根を持つ工作物であって、土地に定着し、少なくともその内部に人の出入りできるもの

をいいます。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正3年6月20日)

 裁判官は、

  • 建造物とは、家屋その他これに類似する建造物を指称するものにして屋蓋(おくがい:屋根)を有し、培壁又は柱材により支持せられて土地に定着し、少なくともその内部に人の出入りし得べきものたることを要す
  • 邸宅の表門がその囲障の一部を成し、開閉してもって通行に備えるにとどまり、人の出入りし得る内部を有せざるときは、建造物なりというを得ず
  • 従って、これと一体を成せる潜戸を破壊するも刑法第261条器物損壊罪)に該当するのみにして、建造物損壊罪に問擬(もんぎ)すべきものにあらず

と判示しました。

「建造物」に当たるされた事例

 未完成の建物でも、

壁又は柱で支えられた屋根を持つ工作物であって、土地に定着し、少なくともその内部に人の出入りできるもの

の要件を満たせば、刑法260条の「建造物」と認定されます。

 参考となる裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和40年6月7日)

 未完成の建物が刑法260条の「建造物」にあたるとされた事例です。

 裁判官は、

  • 財団法人M農場付設養護施設成H学園の児童寮軽量鉄骨2階建物1棟建坪延約168坪は、いまだ完成していなかったとはいえ、本件犯行当時すでに基礎工事および鉄骨組立工事を完了したうえ、屋根コンクリート打ちを完了し、屋根アスファルト防水工事をほぼ完了し、2階根太部分のコンクリート打ち、2階コンクリート床版下地木毛板敷並べおよび2階コンクリート床版用鉄筋工事をそれそれ完了し、そのほか窓出入口スチールサッシュの取付けおよび間仕切プロック積み工事の施行中であったことがうかがわれるところ、刑法第260条にいう「建造物」とは、壁または柱で支えられた屋根を持つ工作物であって、土地に定着し、少くともその内部に人の出入りできるものを指称すると解されるから、右の児童寮は、未完成ではあるが、同条の建造物といえる程度には完成していたことがきわめて明白である

と判示しました。

東京高裁判決(昭和39年12月9日)

 間口約1.7メートル、奥行約9.8 メートルのでんぷん工場の元攪拌場で周壁はなく、角柱10本で支持されたトタン屋根の建物は建造物に当たるとしました。

「建造物」の要件を欠くとされた物件

 建造物の要件を欠くとされた事例として以下の物件があげられます。

  • 単に棟上げを終えただけで、まだ屋根や周壁等を有するに至らない程度の物件(大審院判決 昭和4年10月14日)
  • くぐり戸の付属した門(大審院判決 大正3年6月20日)
  • 竹垣(大審院判決 明治43年6月28日)

建造物損壊罪の建造物と器物損壊罪の器物とを区別する基準

 刑法260条の建造物損壊罪となる建造物の構成部分と刑法261条の器物損壊罪の客体となる器物とを区別する基準について、判例は、

  • 建造物の構成部分のうち損壊しなければ自由に取り外すととができないもの
  • 構造物の機能的側面をも取り込んで建造物と一体化しているもの

は、建造物損壊罪の建造物とする判断基準を置いています。

 例えば、

  • 天井板(大審院判決 大正3年4月14日)
  • 敷居鴨居(大審院判決 大正6年3月3日)

は、建造物損壊罪の客体となります。

 反対に、建造物損壊罪の客体に当たらず、器物損壊罪の客体になるとする判断基準として、

  • 損壊しないで取り外すことが機能的に予定されているもの

という判断基準を置いています。

 例えば、

  • ガラス障子(大審院判決 明治43年12月16日)
  • 雨戸板戸(大審院判決 大正8年5月13日)
  • 畳(最高裁判決 昭和25年12月14日)

は、建造物損壊罪の建造物に当たらず、器物損壊罪の器物に当たるとしています。

 この点を参考となる以下の判例があります。

大阪高裁判決(平成5年7月7日)

 鉄筋コンクリート造3階建居宅の1階アルミ製玄関ドアに弾丸3発を命中貫通させた事案で、アルミ製玄関ドアが建造物の一部に当たるとされた事例です。

 裁判官は、

  • 建造物の構成部分と器物の区別については、第一次的に、その客体が構造上及び機能上建造物と一体化し、器物としての独立性を失っていると認めるのが相当であるかどうかの観点から決するのが相当であるとした上で、玄関ドアは、外形上も機能上も建造物の外壁の一部をなしており、建造物に強固に固着(適合する器具なしに玄関ドア本体を取り外すには、鈍器を用いるなど強力な力で蝶番等を破壊しなければならない)されて一体化しているので、建造物の一部と認められる

としました。

大審院判決(昭和7年9月21日)

 建造物との一体性を理由として屋根瓦を建造物の一部と認定した事例です。

 裁判官は、

  • 建造物損壊罪は、建造物の全部若しくは一部を損壊することによりて成立す
  • 而して、家屋の屋根に葺きある瓦は、家屋に付着してこれと一体となし、別個の存在を有せざるが故に、家屋の一部をなすものとみるを至当とすべく、従ってこれを剥離するが如きは、、建造物の一部を損壊するものにほかならず
  • 他人の所有に係る家屋の屋根瓦を不法に剥離する行為は建造物損壊罪を構成するものとす

と判示しました。

最高裁決定(平成19年3月20日)

 住居の玄関ドアが建造物損壊罪の客体に当たるとされた事例です。

 5階建て市営住宅1階の居室出入口に設置された金属製開き戸で、同建物に固着された外枠の内側に3個のちょうつがいで接合され、外枠と同ドアとは構造上家屋の外壁と接続しており、一体的な外観を呈しているものにつき、裁判官は、

  • 建造物損壊罪の客体に当たるか否かは、当該物と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものである

とし、

  • 本件ドアは、住居の玄関ドアとして外壁と接続し、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ、適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても、この結論(※本件玄関ドアが建造物損壊罪の客体に当たること)は左右されない

として、玄関ドアを損(くぼそん)させた行為について建造物損壊罪の成立を認めました。

東京地裁判決(平成9年7月14日)

 玄関ドアにけん銃実包3発を打ち込んで玄関ドアを損壊した事案について、器物損壊罪ではなく、建造物損壊罪が成立するとしました。

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