刑法(建造物等損壊罪)

建造物等損壊罪(3) ~「艦船の定義」などを説明~

 前回の記事の続きです。

艦船の定義

 建造物等損壊罪(刑法260条)における「艦船」とは、

軍艦及び船舶

をいいます。

 艦船といい得るためには、

現に自力又は他力による航行能力を有すること

を要します。

 この点を判示した以下の裁判例があります。

広島高裁判決(昭和28年9月9日)

 6年間も海底に沈没していた軍艦を引き揚げ後、スクラップとする目的でその3分の2を既に解体撤去し、浮上してはいるものの完全に航行能力を喪失し、一部の船骸を残すにすぎないものは艦船には当たらないとした事例です。

 裁判官は、

  • 刑法第260条にいわゆる艦船であるがためには現に自力又は他力による航行能力を有するものであることを要するものと解すべきものであるから、右のように六年間も海底に沈没して腐し、かつその三分のニを解体撤去されたとえ水上に浮いていたとはいえ、完全に航行能力を喪失し一部の船骸を残すに過ぎないものであるからもとは軍艦であっても同条にいわゆる艦船には当らないものと解するを相当とする
  • 然らば、右は単なる器物又はスクラップの塊りに過ぎないものと見るべきや否やというに、右は解体途上にあったもので本件犯行当時は既に三分のニを解撤されたとはいえ、なお下甲板以下の巨大なる原型構造を存し内部に人の出入し得べき各室を有して毎日約7、80名の作業員がこれに出入して解撤作業に従事していたもので浮べる解体工場ともいい得べく、かつ地上ではないとしても一定の場所に繋留されていたものであるから右は家屋類似の工作物であって同条にいわゆる建造物に当るものと解するのを相当とする

と判示し、船舶の損壊ではなく、建造物の損壊であると認定し、建造物損壊罪(刑法260条)が成立するとしました。

小型の舟でも建造物等損壊罪の「船舶」に該当する

 小型の舟でも建造物等損壊罪の「船舶」に該当します。

 参考となる判例として以下のものがあります。

広島高裁判決(昭和53年11月2日)

 4.72トン、全長約6メートル、定員6人のモーターボートつき、刑法260条の「艦船」に当たるとし、同モーターボードのフロントガラスを損壊した行為につき、建造物等損壊罪が成立するとしました。

艦船の一部を損壊した場合でも建造物等損壊罪が成立する

 艦船についても、建造物の場合と同様に、艦船の一部を損壊した場合でも建造物等損壊罪が成立します。

 参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(昭和8年11月8日)

 裁判官は、

  • 汽船の構成分子たる機関の一部を損壊するときは、船舶損壊罪成立す

と判示し、船体に固着してこれと一体をなす機関である操舵機のオーム・ホイル(主機関のパイロット・レバー)、燃料ポンプ調整レバー、リンキング・ストップボールド(揚機のハンドルのビン)、主機関の一部であるスターチング・ボックスをそれぞれ破壊又は取り外して艦船を航行できないようにした行為に対し、たとえその回復が容易であっても建造物等損壊罪に当たるとしました。

広島高裁判決(昭和53年11月2日)(前掲と同じ裁判例)

 モーターボートのフロントガラスを損壊した事案で、アルミサッシの二重枠がリベットで船体に取り付けられており、その取外しには特殊な道具と専門的技術を要することから、その構造及び機能に鑑み、「機関」と同様の意味でモーターボートの一部を構成するとし、建造物等損壊罪が成立するとしました。

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