刑法(犯人蔵匿・隠避罪)

犯人蔵匿・隠避罪(2) ~「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者とは?」などを説明~

 前回の記事の続きです。

犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の客体

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は刑法103条に規定があり、

罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の懲役刑に処する

と規定されます。

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)の行為の客体は、

  • 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者

    又は

  • 拘禁中に逃走した者

です。

 この記事では、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」について説明します。

「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」とは?

「罰金以上の刑に当たる罪」とは?

 罰金以上の刑に当たる罪とは、

法定刑が罰金以上の刑を含む罪

をいいます。

 罰金以上の刑とは、

を指します。

 罰金以上の刑に、拘留科料が罰金以上の刑と併せて規定されている罪を含みます。

 なので、法定刑が拘留・科料のみの罪(例えば、軽犯罪法違反)を犯した者は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の客体から除外されます。

「罪を犯した者」とは?

 正犯者予備陰謀をした者を問わず、該当する罪の法定刑が罰金以上であれば、全て「罪を犯した者」に含まれます。

犯人(正犯者)ではなく、共犯者を蔵匿・隠避する行為は犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を成立させるか?

 犯人(正犯者)ではなく、共犯者の蔵匿・隠避は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を成立させるか否かという問題があります。

 結論として、裁判例は、共犯者の蔵匿・隠避は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を不可罰とはできない(犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を成立させる)という見解を示しています。

旭川地裁判決(昭和57年9月29日)

 監禁致死罪刑法221条)の犯人が、他の共犯者を蔵匿し、隠避させたという事案です。

 裁判官は、

  • 証拠隠滅罪は他人の刑事被告事件に関する証拠の完全な利用を妨げる罪であるのに対し、犯人蔵匿、隠避罪は犯人を庇護して当該犯人に対する刑事事件の捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する罪であって、このような法益保護の具体的な態様の相違に着目すると、本件のように、共犯者に対する犯人蔵匿、隠避が、行為者である被告人自身の刑事被告事件に関する証拠隠滅としての側面をも併有しているからといって、そのことから直ちにこれを不可罰とすることはできない
  • 被告人自身の刑事被告事件の証拠方法となるのみならず、終局的には共犯者である犯人自身の刑事被告事件における刑執行の客体ともなる者自体を蔵匿し、隠避せしめて、当該犯人に対する捜査、審判及び刑の執行を直接阻害する行為は、もはや防御として放任される範囲を逸脱するものというべきであって、自己の刑事被告事件の証拠隠滅としての側面をも併有することが、一般的に期待可能性を失わせる事由とはなりえない
  • 被告人と共犯者との間のいわゆる親分、子分としての人的な関係、本件犯人蔵匿、隠避に至る経緯等の具体的な事実関係に照らして検討してみても、被告人に適法行為の期待可能性がなかったといえるほどの事情は存在しない

などとして、犯人蔵匿罪、犯人隠避罪を不可罰とすることはできないとしました。

「罪を犯した者」は真犯人であることを要しない

 「罪を犯した者」は真犯人であることを要するかについて、判例は、真犯人であることを要しないとの立場で一貫しています。

大審院判決(大正12年5月9日)

 裁判官は、

  • 罰金以上の刑に当たる罪を犯したるものとして捜査中の者なることを知り、これを蔵匿し、又は隠避せしむる行為は、刑法第103条の罪を構成するものにして、同罪をもって処断するについては必ずしもその確定的犯人たる事実及び証拠を挙示するの要なし

と判示しました。

最高裁判決(昭和24年8月9日)

 この判決は大審院判決を引用し、

  • 刑法第103条は、司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするものであるから、「罪を犯したる者」は犯罪の嫌疑によって捜査中の者をも含むと解釈しなくては、立法の目的を達し得ない

としました。

東京高裁判決(昭和59年4月5日)

 刑法第103条の罪の故意の内容の前提として、蔵匿の相手方は真犯人であることを要しない旨判示しました。

 上記判例のように、「罪を犯した者」は真犯人であることを要せず、単に捜査・審判の対象となっている者をも含むと解さます。

 なので、

  • 「罪を犯した者」に対する裁判が確定前である場合
  • 「罪を犯した者」に対する裁判の言渡し前である場合
  • 「罪を犯した者」に対する事件の公訴提起前である場合

であっても、その者の蔵匿・隠避は犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を構成することになります。

犯罪が捜査機関に発覚して捜査が開始される前に、犯人と目される者を蔵匿・隠避した場合にも犯人蔵匿罪・犯人隠避罪が成立する

 犯罪が捜査機関に発覚して捜査が開始される前に、犯人と目される者を蔵匿・隠避した場合にも犯人蔵匿罪・犯人隠避罪が成立します。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年10月2日)

 密入国者を、その者に対する捜査が開始される前に蔵匿した事案です。

 裁判官は、

  • 真に罰金以上の刑にあたる罪を犯した者であることを知りながら、官憲の発見、逮捕を免れるように、その者をかくまった場合には、その犯罪がすでに捜査官憲に発覚して捜査が始まっているかどうかに関係なく、犯人蔵匿罪が成立する

と判示しました。

最高裁判決(昭和33年2月18日)

 密入国者を、その者に対する捜査が開始される前に蔵匿した事案です。

 裁判官は、

  • 罰金以上の刑にあたる罪を犯した者であることを知りながら官憲の発見、逮捕を免れるようにこれをかくまつた場合には、その犯罪がすでに捜査官憲に発覚して捜査が始まっているかどうかに関係なく犯人蔵匿罪が成立するものと解す

と判示しました。

訴追又は処罰の可能性がなくなった者を蔵匿・隠避しても犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は成立しない

 犯人蔵匿罪、犯人隠避罪は、捜査、公判等の刑事司法作用を妨害する行為を罰しようとするものです。

 なので、

  • 無罪や免訴の確定判決があった者
  • 公訴時効の完成、刑の廃止、恩赦親告罪についての告訴権の消滅等により訴追又は処罰の可能性がなくなった者

を蔵匿・隠避しても刑事司法作用を妨害するおそれはないため、これらの者を蔵匿・隠避しても犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は成立しません。

 なお、不起訴処分を受けた者については、不起訴処分に確定力がないので、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の客体に含まれます。

 犯人を隠避した後に、その者が不起訴処分になっても、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の成立に影響がないとする以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和37年4月18日)

 裁判官は、

  •  罸金以上の刑に該る罪を犯したものとして逮捕状が発布されている者であることを知りながら、その逮捕を免れしめる意図の下に、犯人を隠避せしめた以上、その後、犯人が不起訴処分を受けたとしても、犯人隠避罪の成立に影響はない

と判示しました。

親告罪につき、未だ告訴がなされていない段階で犯人を蔵匿・隠避した場合にも犯人蔵匿罪、犯人隠避罪が成立する

 親告罪につき、未だ告訴がなされていない段階で、犯人を蔵匿・隠避した場合にも、犯人に対する訴追・処罰の可能性が残されている以上、犯人蔵匿罪、犯人隠避罪が成立するとするのが通説です。

 通説に対して、被害者が自己の名誉保全のために告訴をしない場合、あるいは告訴を取り消した場合には、告訴前の蔵匿・隠避行為は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪を構成しないとする反対説があります。

 この点に関する裁判例は見当たりませんせんが、参考となる判例として以下のものがあります。

大審院判決(明治35年5月19日)

 犯人に対する告訴前にその者を隠避した場合にも犯人隠避罪が成立するとしました(ただし、この事案は親告罪の事案ではありません)。

福岡高裁判決(平成13年11月20日)

 交通反則通告制度の適用を受ける放置駐車違反において、反則金の納付期限が経過していない時点で犯人隠避教唆行為があったという事案です。

 裁判官は、

  • 将来、刑事訴追を受け、法定の罰金刑に処せられる可能性がある以上、本条の「罰金以上の刑に当たる罪」に当たることは明らかである

と判示しました。

既に逮捕・勾留されている者も「罪を犯した者」に含まれる

 既に逮捕・勾留されている者も「罪を犯した者」に含まれるとするのが判例の立場です。

最高裁決定(平成元年5月1日)

 逮捕勾留中の犯人の身代りを出頭させる行為について、犯人隠避教唆罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 犯人が逮捕勾留された後であっても、他の者を教唆して身代り犯人として警察署に出頭させ、自己が犯人である旨の虚偽の陳述をさせた行為は、犯人隠避教唆罪を構成する

と判示しました。

隠避行為時において、被隠避者が既に死亡している場合でも、犯人隠避罪の「罪を犯した者」に含まれ、犯人隠避罪が成立する

 隠避行為時において、被隠避者が既に死亡している場合でも、犯人隠避罪の「罪を犯した者」に含まれ、犯人隠避罪が成立します。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

札幌高裁判決(平成17年8月18日)

 裁判官は、

  • 捜査機関に誰が犯人か分かっていない段階で、捜査機関に対して自ら犯人である旨虚偽の事実を申告した場合には、それが犯人の発見を妨げる行為として捜査という刑事司法作用を妨害し、刑法103条にいう「隠避」に当たることは明らかであり、そうとすれば、犯人が死者であってもこの点に変わりはないと解される

と判示して、死者も犯人隠避罪の「罪を犯した者」に含まれるとしました。

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