刑法(犯人蔵匿・隠避罪)

犯人蔵匿・隠避罪(4) ~「蔵匿とは?」を説明~

 前回の記事の続きです。

蔵匿とは?

 犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)の行為は、「蔵匿し、又は隠避させた」ことです。

 この記事では、「蔵匿」の意義を説明します。

 「蔵匿」とは、

官憲の発見・逮捕を免れるべき隠匿場を供給してこれをかくまうこと

をいいます。

 この点につき、参考となる以下の判示があります。

大審院判決(大正4年12月16日)

 裁判官は、

  • 犯人蔵匿罪は、司法に関する国権の作用と法益とするものなれば、捜査権の行使を侵害して犯人の発見又は逮捕を妨害することを認識し、これに発見又は逮捕を免れる場所を供給するにより成立するものとす

と判示しました。

大審院判決(明治43年4月25日)

 裁判官は、

  • 犯人を蔵匿し又は隠避せしむる罪(刑法第103条)は、犯人の発見逮捕を妨害する所為にして蔵匿といい、隠避というも同じく捜査権侵害の目的を達する手段にほかならず
  • 一つは、潜匿すべき場所を供給し、捜査を困難ならしめ、ほかは、蔵匿以外の方法をもって犯人をして官の捜査を免脱せしめんとするの差異あるのみ
  • 故に、同一の被告人が同一の目的をもってこれに所為を継続して行いたるときは、これを包括的に観察し、1個の犯罪として処断すべきものとす

旨判示しました。

 犯人を「かくまった」といえるためには、

犯人が現実にその場所で一定時間を過ごしたこと

が必要です。

 判例は、「隠匿場」について特に制限を設けていません。

 学説では、「隠匿場」とは、行為者の直接的又は間接的支配が及ぶ場所に限定され、所有者の直接的な占有が及ばない海岸の洞窟のような場所にかくまったときは蔵匿ではなく、隠避であるとする見解があります。

犯人蔵匿の具体例

 判例で犯人蔵匿が認められた事例として以下のものがあります。

① 犯人を被告人又は共犯者方居宅に宿泊させた

(大審院判決 大正4年12月16日、大審院判決 大正6年8月18日、最高裁判決 昭和28年10月2日、大阪高裁判決 昭和56年12月17日)

② 被告人が実質的に所有する山荘に犯人を寝泊まりさせた(大阪地裁判決 平成15年4月17日)

③ 犯人を第三者方の土蔵に潜伏させた(大審院判決 大正12年12月15日)

④ 暴力団関係者と思われる被告人が、組員を住まわせる若衆部屋に犯人を宿泊させた(最高裁判決 昭和24年8月9日

⑤ 被告人が所有する船舶に犯人を乗船させて船舶に隠れさせた(最高裁決定 昭和29年9月30日最高裁判決 昭和33年2月18日

⑥ 犯人を旅館に宿泊させた(最高裁判決 昭和35年3月17日

⑦ 海岸に停泊中の船舶に犯人を乗船させて船底に隠れさせ、別の海上まで輸送した(福岡高裁判決 昭和29年6月22日)

⑧ 犯人のためにアパートの賃貸借契約を締結し、賃料を支払って居住させた(東京地裁判決 昭和52年7月18日)

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