刑法(証拠隠滅罪)

証拠隠滅罪(16) ~刑法105条「『他人』による『犯人・逃走者の親族』への教唆」を説明~

 前回の記事の続きです。

「他人」による「犯人・逃走者の親族」への教唆

 刑法105条は、

前二条(刑法103条の犯人蔵匿罪・犯人隠避罪、刑法104条の証拠隠滅罪)の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる

と規定します。

 「他人」が「犯人・逃走者の親族」を教唆して犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)を実行させた場合、「親族」に刑法105条の適用があることは当然ですが、

  1. 「他人」について犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)の教唆犯が成立するか否か
  2. 教唆犯が成立するとする場合に「他人」に刑法105条が適用されるか否か

が問題となります。

 『①「他人」について教唆犯が成立するか否か』については、「他人」について犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)の教唆犯が成立すると解されます。

 『②教唆犯が成立するとする場合に「他人」に刑法105条が適用されるか否か』については、刑法105条が適用されないと解されます。

『①「他人」について教唆犯が成立するか否か』についての説明

 ①に関し、以下の判例が参考になります。

大審院判決(昭和9年11月26日)

 裁判所は、

  • 親族相盗に関する刑法第244条第1項は、親族間の窃盗行為はこれを可罰行為となし、単にその免除するに過ぎざるをもって非親族の共犯はこれを罰すべきは当然なる

と判示し、非親族の共犯者に対しては刑が免除されないとしました。

 刑法244条1項は、犯人の配偶者、直系血族又は同居の親族との間で窃盗罪(第235条)、不動産侵奪罪(第235条の2)を犯した場合に、その犯人を刑を免除するという規定です。

 刑法244条1項は、親族間の間の犯罪の刑を免除する点で刑法105条と共通するので、上記判例の考え方は刑法105条に当てはまると考えられます。

 よって、非親族である「他人」が、「犯人・逃走者の親族」を教唆して犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)を実行させた場合、「他人」に対しては刑が免除されず、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)の教唆犯が成立すると考えられます。

『②教唆犯が成立するとする場合に「他人」に刑法105条が適用されるか否か』についての説明

 ②について、「他人」に犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)の教唆犯が成立する場合に、刑法105条の適用があるかについて、学説は、

犯人・逃走者の親族を教唆した他人に教唆犯が成立し、刑法105条による親族に対する刑の裁量的免除は親族の一身に限られ、その効果は共犯に及ばないから、他人に刑法105条の適用はない

とする見解で一致しています。

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