刑法(境界損壊罪)

境界損壊罪(3) ~「境界損壊罪の故意」を説明~

 前回の記事の続きです。

境界損壊罪の故意

 境界損壊罪(刑法262条の2)は故意犯です。

 境界損壊罪の故意は、

土地の境界を認識不能にすること

です。

 なので、境界損壊罪が成立するには、

土地の境界を認識不能にすることについて故意

が必要になります(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 境界は、必ずしも土地の真実の権利関係に合致しているものであることを要しません。

 なので、法律上の正しい権利関係に合致しないものと信じて境界標を毀損等した場合であっても、客観的に境界として認められていることの認識があれば、境界損壊罪の故意としては足ります。

 境界損壊罪の故意を認めるに当たり、不法領得の意思や他人に損害を加える目的は不要です。

裁判例

 境界損壊罪の故意の有無が争点となった裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和61年3月31日)

1 弁護人の主張

 弁護人は、

  • 原判決は、被告人が昭和57年1月10日長野県佐久市内のA所有の畑とこれに隣接する被告人所有の畑との境界に所在する通路上に以前から埋設されていた自然石5個を掘り起してその場から除去し、さらに同日ころから同年2月初旬ころまでの間に右通路を耕作して畑とし、もって境界標を除去するなどして右土地の境界を認識することができないようにしたと認定したものであるところ、被告人は、原判示の石を撤去し、かつ通路を耕して畑とした事実は認めるが、右石及び通路は真正な境界標等でないばかりか、「現に存する境界」又は「事実上ある境界」でもなかったし、被告人が右石を撤去し、通路を耕作するにあたっても、それらを「現に存する境界」とも、また「事実上ある境界」とも考えていなかったものであるから、被告人には境界毀損の故意もなかったものであるとして、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある

と主張しました。

2 裁判官の判断

 弁護人の主張に対し、裁判官は、

  • 原判示通路及びこれに埋設されていた自然石は法律上あるべき境界であったかどうかはともかくとして、少なくとも世人によって境界と認められてきたところの「事実上ある境界」にあたることは明らかであるから、被告人の原判示所為は刑法262条の2の構成要件を充足するというほかはない
  • しかも、被告人が原判示の所為に出たのは、原判示の通路及び自然石をそのままにしておくとこれが法律上あるべき境界として確定されることをおそれたがためであったことは被告人自身も認めているところであってみれば、被告人には原判示の通路及び自然石が前示の「事実上ある境界」にあたり、これを移動、損壊することによって事実上ある境界を認識しえなくなることをも知悉していたと認めるに十分であるから、境界毀損罪の犯意にも欠けるところはない

と判示し、被告人には境界損壊罪の故意があるとして、境界損壊罪が成立するとしました。

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境界損壊罪(3) ~「境界損壊罪の故意」を説明~

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