刑事訴訟法(公判)

被告人の弁護人③ ~「国選弁護人」「必要的弁護事件」を説明

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、私選弁護人について説明しました。

 今回の記事では、国選弁護人を説明します。

国選弁護人とは?

※ この記事では、被告人(事件を起訴された者)に付される国選弁護人を説明します。

※ 勾留されている被疑者に付される国選弁護人(被疑者国選弁護人制度刑訴法37条の2についての説明は前の記事参照。

 国選弁護人とは、

裁判所又は裁判長が被告人のために選任した弁護人

をいいます。

 国選弁護人は、

  • 弁護人を国が選任して被告人につける点
  • 弁護費用を国が負担する点

が私選弁護人との大きな違いになります。

 国選弁護人制度は、私選弁護人制度を補充し、弁護制度の趣旨を徹底するために設けられている憲法上の制度です(憲法37条3項後段)。

被告人に国選弁護人が付される要件

 被告人に国選弁護人が付される要件について、

  1. 必要的に弁護人を付さなければならない場合(必要的弁護事件)
  2. 裁判所の裁量で弁護人が付される場合

に分けて説明します。

① 必要的に弁護人を付さなければならない場合(必要的弁護事件)

 以下の⑴~⑷の場合は、裁判所は必ず被告人に弁護人を付さなければなりません。

⑴ 刑訴法36条刑訴法規則178条3項

 被告人が、貧困その他の事由によって私選弁護人を選任できないときは、裁判所は、被告人の請求により、国選弁護人を付さなければなりません。

 この場合、裁判所は、被告人の請求がなければ弁護人を付する必要はありません(刑訴法規則28条、178条1項後段)。

 被告人が貧困その他の事由により国選弁護人を請求するには、資カ申告書を提出しなければならず、政令で定める基準額以上の資力がある被告人が国選弁護人の請求をする際には、あらかじめ弁護士会に対して私選弁護人の申出をしなければなりません(刑訴法36の2条36の3条)。

 裁判所又は裁判官の判断を誤らせる目的で、その資力について虚偽の記載のある資カ申告書を提出した者は、10万円以下の過料に処せられます(刑訴法38の4条)。

⑵ 刑訴法289条

 法定刑が、死刑、無期、長期3年を超える懲役・禁錮に当たる事件(必要的弁護事件)で、弁護人が出頭しないとき、若しくは在廷しなくなったとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければなりません。

 また、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができます。

⑶ 刑訴法316の4

 公判前整理手続刑事訴訟法316条の2~32)において、被告人に弁護人がいないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければなりません。

⑷ 刑訴法316の8

 弁護人がいても、弁護人が公判前整理手続期日に出頭しないとき、又は在席しなくなったときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければなりません。

 弁護人が公判前整理手続期日に出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができます。

 公判前整理手続に付される事件は、複雑な事件であることが通常であるため、検察官の主張、その証拠関係、被告人側の証拠、被告人の言い分などを法的な観点から整理・検討して被告人側の主張・立証を行うべきであるので、弁護人が必要的であるとされています(刑訴法規則217の5)。

② 裁判所の裁量で弁護人が付される場合

 以下の⑴⑵の場合は、裁判所は、裁量により、職権で弁護人を付すことができます。

⑴ 刑訴法37条

  • 被告人が、未成年であるとき(なお、刑訴規則279条により、被告人が未成年であるときは、なるべく弁護人を付さなければならないとされる)
  • 被告人が、年齢70歳以上の者であるとき
  • 被告人が、耳が聞こえない者又はロのきけない者であるとき
  • 被告人が、心神喪失者・心身耗弱者である疑いがあるとき
  • その他必要と認めるとき

⑵ 刑訴法290条

  • 弁護人がいても出頭しないとき

国選弁護人を付すことに関する判例

 被告人に国選弁護人を付すことに関する判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和54年7月24日)

 被告人から国選弁護人の選任請求がなされても、被告人において、国選弁護人を通じて権利擁護のための正当な防御活動を行う意思がなく、したがって、その国選弁護人の選任請求も誠実な権利内行使とはめられず、権利の濫用と認められる場合には、裁判所は、 選任請求を却下することができるし、それを却下しても、憲法37条3項に違反するものではないとしました。

最高裁判決(昭和63年7月8日)

 被告人が、判決宣告期日の前々日に2名の私選弁護人を解任し、その翌日、国選弁護人選任の請求に及んだのに対し、裁判所がその選任をしないまま予定の期日に判決を宣告した点につき、この時期に弁護人を全員解任するのもやむを得ないとする事情はなく、裁判所が判決宣告期日までに国選弁護人を選任することは困難であったとして憲法31条37条3項に違反するものではないとしました。

最高裁判決(昭和24年11月2日)

 国選弁護人は、被告人が自ら弁護人を依頼することができないときに国で付するものであり(37条3項後段) 、被告人自身が弁護人を依頼することができないといえるためには、必ず依頼できないといえるがけの相当の事由がなければならず、被告人が、貧困その他の事由の有無にかかわらず弁護人を選任する意思のない場には、必要的弁護事件を除き、国が積極的に弁護人を選任する必要はないとしました。

東京高裁判決(昭和61年1月20日)

 裁判所が必要と認めた以上、被告人の固辞にもかかわらず国選弁護人を付することは違法・不当とはいえないとしました。

被告人の国選弁護人は弁護士でなければならない

 被告人の国選弁護人は、必ず弁護士の中から選任されなければなりません(刑訴法38条刑訴法規則29条)。

 憲法37条3項においても、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人(つまり弁護士)を依頼することができる」と定められています。

 私選弁護人は、弁護士以外の者がなることができる特別弁護人が例外的に認められており、この点に国選弁護人と私選弁護人に違いがあります。

国選弁護人の人数

 被告人に付される国選弁護人の人数は、基本的には、被告人1人について1人です。

 しかし、裁判員裁判などの大きな事件などは、1人の被告人に2人以上の国選弁護人が付される場合があります。

「被告人の利害が相反しないとき」は、1人の国選弁護人が複数の被告人の国選弁護人に同時になることができる

 1人の国選弁護人が複数の被告人の国選弁護人に同時になることもできます。

 刑訴法規則29条5項に、「被告人又は被疑者の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができる」と規定されており、「被告人の利害が相反しないとき」は、1人の弁護人に数人の被告人の弁護をさせることができます。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和60年7月15日)

 裁判官は、刑訴規則29条5項の「被告人の利害が相反しないとき」とは、

  • 一方の被告人に有利な事実乂は弁護活動が、当然に他方の被告人の利益に帰するとはいえない場合をいう

と判示し、犯罪事実を一部否認する被告人Aと、犯罪事実を全く争わない被告人Bに対し、同一の国選弁護人を付して弁護させたことは違法とはいえないとしました。

名古屋高裁判決(昭和55年7月31日)

 被告人AとBが共謀して行った恐喝被告事件について、Aが共謀事実や犯意を否認して争う場合には、両者の利害が相反するので、両名に同一の国選弁護人を付することはできないとしました。

名古屋高裁判決(平成9年9月29日)

 死刑に処されることが予想されるA、B共謀による強盗殺人、死体遺棄、強盗、殺人、窃盗被告事件で、A、Bに同一の国選弁護人が付された事案で、裁判官は、

  • 犯情に影響すると思われる部分について食い違う点が少なからずある
  • 被告人両名が一貫して各公訴事実を認め、国選弁護人の選任に関し異議の申立て等がなかったにしても、同一の国選弁護人に数人の弁護をさせることができる場合である、刑訴規則29条2項の「被告人の利害が相反しないとき」に該当しない、というべきである
  • それにもかかわらず、同一の弁護士を被告人両名の国選弁護人に選任し、これを維持した原審裁判所の措置は右規則に反し、この法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである

と判示し、原判決破棄し、事件を津地方裁判所に差し戻し、裁判のやり直しを命じました。

他の事件が併合して審理されることになった場合の国選弁護人の選任の効力

 国選弁護人が付された後、同じ被告人の他の別事件が併合して審理されることになった場合、併合された別事件についても、国選弁護人の選任の効力が及びます。

 ただし、裁判所がこれと異なる決定をした場合には、その選任の効力は別事件には及びません(刑訴法313の2)。

国選弁護人は裁判所から解任されることにより地位を失う

 国選弁護人は、裁判所から解任されることにより、国選弁護人の地位を失います。

 この点、裁判所から解任されることがない私選弁護人とは場合と異なります(私選弁護人の選任効力については前の記事参照)。

 なので、国選弁護人が辞任を申し出た場合でも、裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り、国選弁護人の地位は失われません。

 この点、参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和54年7月24日)

 国選弁護人は、裁判所が解任しない限りその地位を失うものではなく、したがって、国選弁護人が辞任の申出をした場合であっても、裁判所が辞任の申出について正当な理由があると認めて解任しない限り、弁護人の地位を失うものではないというべきであると判示しました。

国選弁護人の解任事由

 国選弁護人の解任事由は、刑訴法38の3条1項に規定されており、①~⑤の事由に該当するときに、裁判所は、国選弁護人を解任することができます。

  1. 第30条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により弁護人を付する必要がなくなったとき
  2. 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき
  3. 心身の故障その他の事由により、弁護人が職務を行うことができず、又は職務を行うことが困難となったとき
  4. 弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき
  5. 弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき

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