刑法(器物損壊罪)

器物損壊罪(13) ~違法性阻却事由②「器物損壊罪における正当防衛」を説明~

 前回の記事の続きです。

器物損壊罪における正当防衛

違法性阻却事由とは?

 犯罪は

  • 構成要件該当性
  • 違法性
  • 有責性

の3つの要件がそろったときに成立します。

 犯罪行為の疑いがある行為をしても、その行為に違法性がなければ犯罪は成立しません。

 この違法性がない事由、つまり違法性がないが故に犯罪が成立しないとする事由を「違法性阻却事由」といいます(詳しくは、前の記事参照)。

 器物損壊罪の違法性阻却事由として論点としてあがる

が論点として上がります。

 今回は、「正当防衛」を説明します。

正当防衛

正当防衛の成立を認め、器物損壊罪の成立を否定した裁判例

 器物損壊罪(刑法261条)において、正当防衛の成立を認めた裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和35年9月27日)

 自己所有の土地に他人が設置中の板塀を損壊した行為に正当防衛を認めた事例です。

 裁判官は、

  • A所有の土地に隣接する土地の所有者Bが、突如不法に甲の所有地内に板塀を設置する行為は急迫不正の侵害であって、これに対し、Aにおいて他に適切な防止手段がなく、しかも直ちにこれを制止せず放置しておくならば、短時間内に板塀は完成し、土地所有権を侵害され、たやすく回復し難い損害を被るに至るべき場合に、自己の権利を防衛するためやむことを得ざるに出た行為(板塀として打ち付けた古戸板を手で剥ぎ取った行為)は正当防衛に当たる

とし、器物損壊罪の成立を否定しました。

正当防衛の成立を否定し、器物損壊罪が成立するとした裁判例

 正当防衛の成立を否定し、器物損壊罪が成立するとした裁判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和3年5月8日)

 田地の買受人である新所有者が自ら耕作するため挿苗することは対抗力のない小作権を不正に侵害するものでないから、小作人が小作権を主張して挿苗を引き抜く行為は、正当防衛とはいえないとし、正当防衛の成立を否定し、器物損壊罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和35年10月19日)

 被告人の父が耕作権を有する畑地に、その所有者が、その畑地を取り上げるため昭和33年7月24日頃に設置した板塀を、同年8月7日、耕作権を侵害するものとして損壊した事案です。

 裁判官は、

  • 被告人方が耕作権を侵害せられるものとするのであれば、当然直ちに法が認める救済手段を国家機関に求むべきであり、かつ、その時間的余裕は十分にあったのにかかわらず、その間何らかかる手段に訴えることに手を尽した事跡も見えず、そばの蒔付けをするからといって突如として板塀を損壊した被告人の本件所為は、急迫不正の侵害に対しやむことを得ざるに出でた正当防衛ということはできないのはもちろん、緊急避難に該当する場合とも認められない

とし、正当防衛の成立を否定し、器物損壊罪が成立するとしました。

名古屋高裁金沢支部判決(平成4年11月13日)

 昭和天皇、皇太后や皇族及び英国の貴顕の人たちの肖像写真と女性の陰部・裸体、骸骨等の写真を組み合わせて構成した作品を掲載した図録を破棄した事案です。

 裁判官は、

  • 右のような内容の作品を制作し、これを公開展示したということが、直ちにその中で肖像写真を使用された天皇や他の人達の個人的名誉を毀損し、あるいは侮辱したことになるかという観点で考察した場合、これが具体的に事実を摘示してはいないのは明らかであるから、名誉毀損罪として人の社会的名誉を侵害したといえないのはもちろん、事実を摘示しないまでも公然と人を蔑視愚弄してその社会的な評価を損なう犯罪行為にまで達しているとみなすことも困難であり、まして、本件作品自体を直接に公開展示するというわけではなく、図書館が所蔵する一資料として、一部に本件作品の写真が掲載されている本件図録の閲覧を、所定の手続きを取った個別の希望者に限って許すという形での公開措置が、直ちにこれらの刑罰法規に触れる違法なものとすることはできないのである
  • もっとも、自己の肖像写真が使用されることを本人が好まず、その名誉感情が損なわれるということがないともいえず、その場合にはまた、プライバシーの権利の保護という見地からの配慮も求められるのではあるが、それはたちまち、その好ましくないと思う状態を解消するため、防衛行為として有形力による実力行使が正当なものとして許されるような急迫不正の法益侵害があったことを意味するものでないのはいうまでもない

とし、正当防衛の成立を否定し、器物損壊罪が成立するとしました。

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