刑法(証拠隠滅罪)

証拠隠滅罪(10) ~「偽造・変造とは?」「偽造・変造証拠の使用とは?」「偽造・変造・使用の具体例」を説明~

 前回の記事の続きです。

証拠隠滅罪でいう「偽造」「変造」「偽造・変造証拠の使用」とは?

 証拠隠滅罪は、刑法104条に規定があり、

他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 この記事では、証拠隠滅罪(刑法104条)でいう「偽造」「変造」「偽造・変造証拠の使用」の意義を説明します。

1⃣「偽造」とは?

 まずは、「偽造」について説明します。 

 「偽造」証拠の「偽造」とは、

  • 新たな証拠を創造すること
  • 実在しない証拠を実在するがごとく新たに作出すること

をいいます。

 「偽造」には、

犯罪事実となんら関係のない物件を利用して、犯罪事実と因果関係があるように装置して犯罪の有無の証明に関する状態を虚構する行為

を含みます。

 参考となる裁判例として以下のものがあります。

仙台高裁判決(昭和35年5月17日)

 裁判所は、

  • 刑法第104条にいわゆる証拠の「偽造」とは、実在しない証拠を実害するごとく新たに作り出すことをいい、事実を虚構することが、その概念要素である

と判示しました。

大審院判決(大正7年4月20日)

 裁判所は、

  • 真実なる証拠に類似する物件を新たに制作する場合はもちろん、犯罪事実と何ら因果関係なき物件を捉え来りて、新たにこれがあるが如く装置し、もって罪の有無の証明に関する状態を虚構するが如きは証拠偽造にほかならずして、その物件の既存のものなると新たに制作したるものなるとは問わざるものとす

と判示しました。

「偽造」の具体例

 証拠の偽造の具体例として、以下のものが挙げられます。

① 書面の偽造・改ざんの態様

  • 公選法違反の事件に関し、実際と異なる日に金銭の授受があったことを示す受取証書を後日作成した行為(大審院判決 昭和6年5月15日)
  • 選挙買収の罪で公判中の被告人が、被供与者から形式的に借用証を取っていたことを奇貨として、供与金が貸金であったとの証拠を作出するべく、被供与者を相手に貸金返還請求の民事裁判を提起した上、被告に請求の認諾を依頼し、情を知らない裁判所書記官に内容虚偽の認諾調書を作成させた行為(大審院判決 昭和12年4月7日)
  • 他人の刑事事件の参考人として検察官から上申書の作成・提出を求められた者が虚偽の内容を記載した上申書を作成した行為(東京高裁判決 昭和40年3月29日)
  • 手帳及び日記帳を改ざんして、収賄被告事件の被告人のアリバイ証拠となる虚偽の事実を書き加えた行為(福岡地裁判決 平成6年11月28日)
  • 過少納税申告による法人税法違反被告事件について、架空経費を作出するために内容虚偽の契約書を作成した行為(最高裁決定 平成18年11月21日
  • 簿外経費をねつ造して知人の法人税法違反事件の責任を免れさせるため、内容虚偽の契約書及び違約金支払に関する書面を作成した行為(東京地裁判決 平成16年10月20日)
  • 高速道路におけるトラブルの相手方に対し、自動車損壊をねつ造して逮捕されるよう仕向けようと考え、事情を知らない知人に内容虚偽の自動車修理見積書等を作成させ、これを警察官に提出した行為(大阪地裁判決 平成23年11月1日)
  • 盗品等有償譲受け被告事件の弁護人である弁護士が、犯人ではない者に、真犯人は自分と弟である旨の内容虚偽の書面を作成させ、これを証拠として公判裁判所に提出した行為(宮崎地裁判決 平成21年4月28日)

【無罪事例】

 公判中の被告人が、被害者が示談に応ぜず、送金しても受領しないことを知りながら現金書留郵便を発信し、書留郵便物受領証を弁護人に渡して、示談成立の証拠として裁判所に提出するよう求め、弁護人がこれを示談成立の立証趣旨で裁判所に提出したという事案につき、書留郵便物受領証自体は偽造したものとはいえないから、証拠隠滅罪は成立しないとしました(仙台高裁判決 昭和35年5月17)。

② 証拠物(書面を除く)の偽造・状況の作出の態様

  • 放火事件に関し、放火に用いられたと思われる石油入りガラス瓶の所在が不明であることに乗じて、失火である旨の弁解の裏付けのため、新たに石油を入れたガラス瓶を物置に差し置いた行為(大審院判決 大正7年4月2日)
  • 集団暴走行為による道路交通法違反被疑事件について、犯人の虚偽のアリバイを作出するため、犯行時に別の場所に現在していたと仮装するビデオテープをねつ造した行為(札幌地裁判決 平成10年11月6日)
  • けん銃所持の嫌疑による警察の捜索に備えるため、モデルガンを捜索場所に備え置いた行為(大阪高裁判決 平成14年1月17日)
  • 証拠物の保管を担当していた警察官が、強盗強姦事件の証拠品であるたばこの吸い殻1本がなくなっていることに気付き、上司の監察に備えるため、親族から入手したたばこの吸い殻に指紋検出のための薬品を塗るなどして証拠品の代替品を作った行為(大阪地裁判決 平成24年7月25日)

③ その他の態様

  • 選挙買収被疑事件に関し、弁護士において、立候補者から秘書に渡された金員が、第三者から立候補者への個人献金として秘書に渡されたものであることを偽装するべく、第三者にその旨の上申書を作成させて検察官に提出させるとともに、当該金員が第三者の事務所の金庫内に以前保管されていたような状況を作出させた行為(千葉地裁判決 昭和34年9月12日)

2⃣「変造」とは?

 次に、証拠の「変造」について説明します。

 証拠の「変造」とは、

既存の証拠に変更を加えること

をいいます。

 既存の証拠に変更を加える権限の有無、変更内容の真偽を問いません。

「変造」の具体例

 証拠の変造の具体例として、以下のものが挙げられます。

  • 取引所法違反事件の証拠である金銭出納帳、大福帳、金銭支払帳の内容を改ざんした行為(大審院判決 昭和3年7月21日)
  • 汚職・横領事件の金員の出所を裏付ける帳簿書類の記載を改ざんした行為(大審院判決 昭和10年9月28日)
  • 過量の麻酔薬を注射したことによる業務上過失致死事件に関し、証拠物である注射器に残った麻酔薬を廃棄した上、注射器を水洗いした行為(宮崎地裁日南支部判決 昭和44年5月22日)
  • 心臓外科手術の担当チームの責任者であった医師が、手術により患者が死亡し、業務上過失致死による刑事責任を免れるため、ICU記録の病変に関する数値を書き換えた行為(東京地裁判決 平成16年3月22日)
  • 虚偽有印公文書偽造被告事件を担当していた検察官が、証拠物であるフロッピーディスク内の文書ファイル更新日時「2004年6月1日1:20:06」を「2004年6月8日21:10:56」に改変した行為(大阪地裁判決 平成23年4月12日

3⃣「偽造・変造証拠の使用」とは?

 偽造・変造証拠を「使用する」とは、

当該証拠が偽造・変造されたものであることを認識しながら、裁判所・捜査機関に提出すること

をいいます。

 偽造・変造した者が被告人・被疑者であって証拠隠滅罪(態様:証拠偽造・変造)を構成しない場合であっても、

  • 弁護人が被告人・被疑者の申出により裁判所・捜査機関に偽造・変造した証拠の取調べを請求したとき(大審院判決 大正7年4月2日)
  • 捜査機関等から求められて偽造・変造した証拠を提出したとき(大審院判決 昭和12年11月9日)

には、証拠隠滅罪(態様:使用)が成立します。

「偽造・変造証拠の使用」の具体例

 偽造・変造証拠の使用の具体例として、以下のものが挙げられます。

  • 放火事件に関し、弁護土が、失火であることの裏付けとして、被疑者らの偽造した証拠物を検事局に提出した行為(大審院判決 大正7年4月2日)
  • 公選法違反容疑で家宅捜索を受けた際、予審判事の求めに応じて、偽造証拠たる手形を任意提出した行為(大審院判決 昭和12年11月9日)
  • 参考人として検察官から上申の作成、提出を求められた者が、虚偽の内容の上申書を作成して検察官に提出した行為(東京高裁判決 昭和40年3月29日)
  • 遠洋漁業中の日本国籍漁船内で発生した傷害致死事件に関し、過失による死亡事故である旨の虚偽の死亡事故発生報告書と図面を海上保安部宛にファクシミリ送信した行為(仙台地裁気仙沼支部判決(平成3年7月25日)
  • 宗教教団構成員による公正証書原本不実記載、同行使等被疑事件(内容虚偽の登記申請をして登記簿原本にその旨の記載をさせた)について、関与者の刑事責任を免れさせるため、教団の会計担当者が、内容虚偽の仮払金申請書を捜査担当の検察官に提出した行為(東京地裁判決 平成11年2月18日)

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