刑法(証拠隠滅罪)

証拠隠滅罪(17) ~刑法105条「『犯人・逃走者の親族』による『他人』への教唆」「『犯人・逃走者』による『自己の親族』への教唆」を説明~

 前回の記事の続きです。

「犯人・逃走者の親族」による「他人」への教唆

 刑法105条は、

前二条(刑法103条の犯人蔵匿罪・犯人隠避罪、刑法104条の証拠隠滅罪)の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる

と規定します。

 「犯人・逃走者の親族」が「他人」を教唆し、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)を実行させた場合、

  • 「他人」に犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)が成立する
  • 「犯人・逃走者の親族」にその教唆犯が成立する

となります。

 ここで、この場合に「犯人・逃走者の親族」に刑法105条の適用があるか否かが問題になります。

 この問題については、「他人」を教唆した「犯人・逃走者の親族」には、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)の教唆犯が成立すると解されます。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和8年10月18日)

 裁判所は、

  • 何人も他人を教唆して犯罪を実行せしむることを得ざるば言を俟たざるところなれば、たとえ親族たる犯人を庇護する目的に出たりとするも、他人を教唆して犯人隠避の罪を犯さしむるが如きは、いわゆる庇護の濫用にして法律の認むる庇護の範囲を逸脱したるものといわざるとえざるにより、犯人隠避罪の罪責に任せざるべからざる論を挨たず

と判示し、「犯人・逃走者の親族」が「他人」を教唆し、「他人」に犯人隠避罪を犯させた場合、「犯人・逃走者の親族」も犯人隠避罪の罪責に問わなければならないとしました。

 したがって、「他人」を教唆した「犯人・逃走者の親族」に教唆犯が成立することになります。

 そして、この場合の「犯人・逃走者の親族」に刑法105条の適用があるかについては、適用はないと解されます。

 この点、「犯人・逃走者の親族」が自ら犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)を実行する場合には、期待可能性が少ないといえるため、刑法105条が適用されるが、「犯人・逃走者の親族」が「他人」を教唆して犯罪を惹起させるのは、もはや期待可能性が少ないとはいえないとし、教唆犯たる「犯人・逃走者の親族」に刑法105条の適用を認めないとする学説の見解が参考になります。

「犯人・逃走者」による「自己の親族」への教唆

 「犯人・逃走者」が「自己の親族」を教唆し、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)を実行させた場合、

  • 「親族」の行為について、「親族」に対し、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)、証拠隠滅罪(刑法104条)が成立する

    かつ

となります。

 ここで、この場合に「犯人・逃走者」について教唆犯が成立するか否か、成立するとした場合に刑法105条の適用があるかという問題があります。

 この点に関し、犯人がその親族に対し、自己の刑事事件に関する証拠の隠滅を教唆してこれを実行させた場合、犯人には証拠隠滅の教唆犯が成立し、かつ、犯人自身には刑法105条の適用がないとした裁判例(東京高裁判決 昭和33年6月2日)があります。

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