過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(12)~「交通整理は行われていないが見通しの良い交差点を車で直進する際の注意義務」を判例で解説~

交通整理は行われていないが見通しの良い交差点を車で直進する際の注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、交通整理は行われていないが見通しの良い交差点を車で直進する際の注意義務について説明します。

注意義務の内容

 交通整理は行われていないが見通しの良い交差点を通過(直進)する場合、交差道路を進行して来る相手車の状況を容易に認識できるのであるから、相手車が交差点入口に接近していたり、相手車に避譲の様子が認められないなど、衝突の危険が存する場合には、被告車が優先道路、幅員の広い道路を進行しているときでも、相手車の動静を注視し、減速徐行、あるいは交差点直前でいったん停止する等の注意義務があるとされます。

事例

 交通整理は行われていないが見通しの良い交差点の事故に関する事例として、以下のものがあります。

被告車に過失が認められた事例

東京高裁判決(昭和55年3月4日)

 被告車が、時速約70キロメートルで優先道路を走行し、交差点を直進しようとした際、一時停止の道路標識のある右方交差道路から時速約20~30キロメートルで進行して来た相手車が交差点入口に4メートル足らずに迫っているのを認めながら進行を続け衝突した事案です。

 被告車が、優先道路進行車であっても、最も基本的な制限速度遵守、前方注視義務については、免除、減軽されないとし、被告人に過失ありとしました。

大阪高裁判決(昭和46年9月3日)

 被告人が飲酒酩酊して、普通貨物自動車を時速約60キロメートルで運転し、交差道路より幅員が明らかに広くない道路を進行中、交差点入口手前36.3メートルで右方道路から進行して来る小型四輪乗用自動車が交差点入口手前18.5メートルに迫っているのを認めながら進行し衝突した事案で、被告人に過失ありとしました。

大阪地裁判決(昭和43年12月2日)

 被告人が、普通貨物自動車を時速約50キロメートルで運転し、幅員の狭い道路と交差する交差点を直進しようとした際、右方道路から進行して来る普通乗用車を約58メートル右斜め前方に認めながら加速進行し衝突した事案で、被告人に過失ありとしました。

岡山地裁津山支部判決(昭和46年6月23日)

 普通貨物自動車を時速約60キロメートルで運転して国道を進行し、左方交差道路から上り坂を下向きの姿勢で自転車を操縦して進行して来る者を約41メートル手前で認めながら交差点を直進しようとして衝突した事案で、被告人に過失ありとしました。

被告車の過失が否定された事例

最高裁判決(昭和45年12月22日)

 被告車が、農道と交差する幅員が明らかに広い道路を進行し、狭い農道から直進しようとして進行して来た自動二輪車と衝突した事案で、被害者が一時停止をして被告人に進路を
譲るべきものであったとし、被告人の過失を否定しました。

最高裁判決(昭和45年11月17日)

 被告車が、狭い農道から右折しようとして進行して来た自動二輪車と衝突した事案で、被告人が、相手がいったん停止して自車に進路を譲ってくれるものと信じたのは自動車運転者として当然のことであり、これを不注意であるということはできないとし、被告人の過失を否定しました。

大阪高裁判決(昭和44年8月22日)

 被告車が幅員が明らかに広い道路を進行し、左方道路からの交差点のあることに気付かずに自動車を運転して来た者と衝突した事案で、被告人の過失を否定しました。

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