刑法(横領罪)

横領罪(22) ~「①委託された有価証券、②手形割引を依頼された者が受領した金銭を領得した場合、横領罪が成立する」を判例で解説~

委託された有価証券を領得した場合、横領罪が成立する

 委託された有価証券は委託者の所有に属し、委託の趣旨に反してその有価証券を処分すれば、横領罪となります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁決定(昭和36年10月31日)

 この判例で、裁判官は、

  • 使途の決まっている金銭または有価証券の寄託を受けた場合は、所定の使途に使用されるまでは、これらの所有権は所有者に保留され、これを受寄者か所定の使途以外に使用すれば、横領罪を構成するものというべきである

としました。

大審院判決(昭和5年3月4日)

 債権取立ての依頼を受けた者が、取立相手である債務者から交付された為替手形の切替手形(取立ての便宜上、取立人を手形の受取人としたもの)を預かり保管中、その委託の趣旨に反してこれを領得すれば、横領罪となるとしました。

大審院判決(昭和9年11月22日)

 顧客から株式短期取引委託の取次ぎを受けた者が、取引員に交付する証拠金代用として有価証券を受け取り保管中、その委託の趣旨に反してこれを領得すれば、横領罪となるとしました。

大阪高裁判決(昭和51年5月28日)

 商品仲買人が顧客から取引所における売買取引を委託され、その証拠金の代用として有価証券を預託されていた場合、被告人が、その業務に関し、その代用証券を担保に差し入れた行為は業務上横領罪を構成するとしました。

名古屋高裁判決(昭和36年4月10日)

 仮差押え申請の際に要する供託保証金に使途を限定して預かった小切手を、いったん自己の預金口座に預け入れた後、当該口座から現金として引き出し、委託者のために保管していた場合、これを自己の生活費や営業資金等に流用したときには横領罪が成立するとしました。

手形割引を依頼された者が受領した金銭を領得した場合、横領罪が成立する

 手形割引を依頼された者が受領した金銭を領得した場合は、横領罪が成立します。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正12年2月13日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人より手形の割引周旋を委任せられたる者が、その委託の趣旨に従い、第三者より現金を受領したるときは、その金銭は当然委任者の所有に帰し、受任者においてこれを領得して費消る行為は横領罪を構成す

と判示しました。

最高裁決定(昭和33年12月26日)

 この判例で、裁判官は、

  • 他人より手形の割引の委託を受けた者が、その委託の趣旨に従い、第三者より現金を受領したときは、特約ないし特殊の事情の認められないかぎり、右金員は委託者の所有に帰属し、受託者において、これをほしいままに着服または費消する場合には、横領罪を構成する

と判示しました。

大審院判決(昭和3年8月21日)

 手形割引後に委託者が異議を主張して割引金の受領を拒み、手形の返還を請求したため、手形割引の周旋人がその求めに応ずることを約諾したとしても、割引金に対する依頼者の所有権を否定する事情とはならず、周旋人は約諾の趣旨に従って事務を処理する間は、委託者のために割引金を保管する義務があるとし、その割引金を領得した場合は、横領罪となるとしました。

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