刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(23) ~公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)⑤「公務員に関する事実(刑法230条の2第3項)」を説明~

 前回の記事の続きです。

事実証明の前提要件

 刑法230条の2が適用される場合は、名誉毀損罪(刑法230条)は罰されません。

 刑法230条の2「公共の利害に関する場合の特例」は、事実証明の前提として、摘示された名誉を毀損する事実が

  • 公共の利害に関すること(事実の公共性)
  • 行為の目的が専ら公益を図るためであったこと(目的の公益性)

の2点を要求しています。

 また、起訴前の犯罪行為(2項)、公務員に関する事実(3項)については、この要件の一部又は全部の存在を擬制する旨の規定を置いています。

 前回の記事では、「起訴前の犯罪行為(2項)」を説明しました。

 今回の記事では、「公務員に関する事実(3項)」を説明します。

公務員に関する事実(刑法230条の2第3項)

 刑法230条の2第3項により、名誉を毀損する摘示事実が、「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実」である場合は、真実性の証明だけで名誉毀損罪の処罰が否定されます。

 この種の事実については、その「公共性」と「摘示目的の公益性」の両方が擬制され、名誉毀損罪の処罰が否定されるのです。

 その根拠は、公務員を選定・罷免することが国民固有の権利であり、公務員は「全体の奉仕者」(憲法15条2項)であって、その行動は国民の監視下に置かれるべきだという思想にあります。

公務と全く無関係の私事に関しては刑法230条の2第3項の適用は制限される

 公務員に関する事実は、私生活上の事実を含みますが、公務と全く無関係の私事に関しては刑法230条の2第3項は適用されないと解されます。

 参考となる以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年12月15日)

 町会議員Aが自治体警察廃止論から存置論に意見を変えたのを批判する際、Aの身体的障害と結び付け、「2、3日のわずかの期間内での朝令暮改の無節操振りは、片手落の町議でなくては、よも実行の勇気はあるまじく、肉体的の片手落は精神的の片手落に通ずるとか」などの新聞記事を掲載した事例においては「凡そ公務と何らの関係のないことを執筆掲載することは身体的不具者である被害者を公然と誹謗するもの」だとして、名誉毀損罪の成立を認めた原判決は正当だとしました。

刑法230条の2第3項の名誉を毀損する摘示事実は、公務員自身の事実でなければならない

 刑法230条の2第3項の名誉を毀損する摘示事実は、公務員自身の事実でなければならず、単に公務員に関係するというだけでは足りません。

 この点、参考となる裁判例として以下のものがあります。

岡山地裁判決(昭和34年5月25日)

 公務員の性的醜聞の相手方として報道された人妻Aについて、「単に公務員の相手方であるというだけの理由で、Aに対する私行に関する部分についても当然に同項に包含されると解すべきではない」として、Aに対する名誉毀損罪の成立を認めました。

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