刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(27) ~公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)⑨「真実性の誤信(名誉を毀損する摘示事実が真実だと誤信した場合は、名誉毀損罪の故意が阻却され、名誉毀損罪が成立しない)」を説明~

 前回の記事の続きです。

 刑法230条の2が適用される場合は、名誉毀損罪(刑法230条)は罰されません。

 具体的には、名誉を毀損する事実が摘示され、

  • その摘示事実が公共の利害に関し(事実の公共性)
  • 摘示の目的が公益を図ることにあった場合(目的の公益性)

には、

  • 摘示された事実の真否の検討(事実の証明)

がなされ、名誉毀損罪の成否が決せられることになります。

 前回の記事では、「事実の証明の方法・程度」を説明しました。

 今回の記事では、摘示された事実の真否に関し、「真実性の誤信」を説明します。

真実性の誤信(名誉を毀損する摘示事実が真実だと誤信した場合は、名誉毀損罪の故意が阻却され、名誉毀損罪が成立しない)

 刑法230条の2において、名誉を毀損する摘示事実が真実であると証明できなかった場合であっても、相当の根拠をもって真実だと信じて摘示行為に出たのであれば、行為者は処罰されるべきでないとするのが判例の立場です。

 具体的には、被告人において、名誉を毀損する摘示事実が真実だと誤信した場合は、名誉毀損罪の故意が阻却され、名誉毀損罪が成立しないということになります。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和44年6月25日)

 事実を真実と誤信したことにつき相当の理由がある場合は、名誉毀損罪の故意を阻却し、名誉毀損罪は成立しないという立場を採った判例です。

 裁判官は、

  • 刑法230条の2第1項の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和を図ったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の犯意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である

と判示しました。

最高裁決定(平成22年3月15日)

 インターネットを用いた名誉毀損事件です。

 裁判官は、

  • インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の表現手段を利用した場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当である

と判示しました。

次の記事では侮辱罪を説明します。

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