刑事訴訟法(捜査)

通信傍受とは? ~「通信傍受の根拠法令」「秘密録音との違い」「通信傍受の対象犯罪」「傍受令状の執行」を通信傍受法で解説~

通信傍受とは?

 通信傍受とは、

一定の組織的な犯罪を対象として、裁判官の発する傍受令状により、通信当事者のいずれの同意も得ることなく、通信(電話、FAX、電子メールなど)の傍受を行う強制捜査

をいいます。

通信傍受の根拠法令・秘密録音との違い

 通信傍受の根拠法令は、刑訴法222条2項にあり、

『通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる』

と規定されています。

 『別に法律』とは、通信傍受法を指します。

 『当事者のいずれの同意も得ないで』とは、

電話をかける側と電話を受ける側の両方の同意を得ないで、捜査機関がひそかに通話を傍受する状況

を意味します。

 ちなみに、電話をかける側か電話を受ける側の

どちらか一方の同意

を得た上で通話を録音する行為は、適法に行うことができます(これを「秘密録音」といいます)。

 通信を行う当事者のどちから一方の同意がある秘密録音であれば、裁判官の令状を得る必要はなく、いつでも・誰でもできるのです。

通信傍受の対象犯罪

 通信傍受を実行できる犯罪は、限られています。

 全ての犯罪について、通信傍受を実行できるわけではありません。

 通信傍受が実行できるのは、通信傍受法3条の別表1と別表2に記載されている罪で、かつ、

犯行態様が組織的に行われた場合

に限ります。

 通信傍受を行うことができる犯罪が制限されているのは、通信傍受は

憲法の保障する通信の秘密(憲法21条2項)を害する

ため、通信傍受が必要不可欠となる組織的犯罪に限定されているのです。

別表1に記載されている罪

別表2に記載されている罪

別表1と別表2の犯罪の扱いの違い

 別表1の犯罪と別表2の犯罪とでは、傍受令状の発付要件が違います。

 別表1の犯罪の傍受令状の発付要件は、

罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合

です(通信傍受法3条1項1号)。

 別表2の犯罪の傍受令状の発付要件は、

罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由がある場合

に加え、

犯罪が役割の分担に従って行動する人の結合体により行われている

ことを要します(通信傍受法3条1項1号かっこ書き) 。

 別表2の犯罪の方が、別表1の犯罪より、傍受令状の発付要件が厳しく設計されています。

 これは、別表2の犯罪は、単独犯で行われることが多いことから、組織的犯罪性をより慎重に判断する必要があるためと考えられます。

傍受令状

傍受令状の請求権

 傍受令状の発付を裁判官に請求できるのは、

  • 検事総長が指定する検事
  • 国家公安委員会または都道府県公安委員会が指定する警視以上の警察官
  • 厚生労働大臣が指定する海上保安官

に限られます(通信傍受法4条1項)

傍受令状の発付者

 傍受令状を発付できるのは、

  • 地方裁判所の裁判官

に限られます(通信傍受法4条1項)。

傍受令状の執行

 通信傍受を行う場合は、通信管理者に現場立会をしてもらう必要があります(通信傍受法13条)。

 そして、通信傍受令状を通信管理者に示した上で、通信傍受を開始する必要があります(通信傍受法10条)。

 捜査機関は、通信傍受を行うにあたり、電気通信設備に傍受のための機器を接続したり、通信管理者に協力を求めながら通信傍受を行います(通信傍受法11条、12条)。

 傍受した通信内容は、記録媒体に記録して、封筒などに入れて封印する必要があります(通信傍受法24条、25条)。

 封印した記録媒体は、裁判官に提出します(通信傍受法25条)。

 この時、捜査機関は、刑事手続に使用するための記録媒体のコピーを作成しておきます(通信傍受法29条)。

通信の当時者に対する通知

 捜査機関は、通信傍受終了後、30日以内に、傍受記録に記録されている通信の当事者に対し、傍受記録を作成したことなどを通知しなければなりません(通信傍受法30条)。

刑事訴訟法(捜査)の記事まとめ一覧