刑法(証人威迫罪)

証人威迫罪(9) ~「証人威迫罪における故意」を説明~

 前回の記事の続きです。

証人威迫罪における故意

 証人威迫罪(刑法105条の2)は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 証人威迫罪の故意は、

自己若しくは他人の刑事事件の捜査・審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族であることを認識し、かつ、これらの者に対し、当該事件に関し、故なく面会を強請し、又は強談威迫の行為をなすことの認識があれば足りる

とされます。

 したがって、そのような認識以上に、公判の結果になんらかの影響を及ぼそうとの積極的な目的意識を必要としません。

 参考となる裁判例として、以下の物があります。

東京高裁判決(昭和35年11月29日)

 裁判所は、

  • 刑法第105条の2にいわゆる証人威迫罪の成立には、証人らが公判審理の段階において威迫された後に証拠調べを受ける可能性のあること、または公判の結果に影響を及ぼそうとの目的があることを必要としない

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和35年2月18日)

 一度証人として証言した者であっても、当該刑事被告事件が未確定状態にある間は、再度証人として尋問を受けることも予測されるから、証人威迫罪の客体となるとした事例において、裁判所は、

  • 刑法第105条の2は、刑事被告事件の証人等の個人的平穏を保護するとともに、刑事司法の適正な運用を角に舗し、これを阻害する者を処罰する趣旨であって、当該事件が未確定状態にある間に行われる本条所定の行為が処罰対象にとなるものと解するのを相当とする
  • たとえ、本件のようにAが一度証人として証言した後においても、判決確定前においては、なお同人が再度証人として尋問を受けることも予想され得ることであり、また被告人において右証言を取り消しさせる目的も希望も有していなかったとしても、その行為自体が刑事司法の適正な運用を阻害するものとして同条処罰の対象となるものであって、右目的、希望の有無は本件犯罪の成否に影響はない

と判示しました。

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