法律(刑法)

遺失物・占有離脱物横領罪⑨ ~「親族相盗例」「親族の意義」「親族関係を必要とする人的範囲」「成年後見人,未成年後見人による横領行為と親族相盗例」を判例などで解説~

親族相盗例の適用

 遺失物等横領罪(刑法254条)は、刑法255条により、親族間の犯罪に関する特例(刑法244条)が準用されます。

刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)

1 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

3 前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 刑法244条の規定により、遺失物等横領罪の主体(犯人)と財物の所有者との間に、一定の親族関係がある場合には、刑の免除がなされ、又は、犯罪が親告罪になることがあります。

 刑法244条は、遺失物等横領罪のほか、横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)にも適用されます。

親族相盗例の規定の趣旨

 刑法244条の親族相盗例の規定の趣旨について、学説は、

犯罪が成立することを前提としつつ、親族間の一定の財産犯については、「法は家庭に入らず」という思想に従って、できるだけ家庭内の自律に委ねるべきであって、国家が刑罰権を行使することは差し控えるべきである

という刑事政策的考慮に基づき、犯人の処罰について特例を設けたものと解するのが通説(人的処罰阻却事由説)となっています。

 この点について、判例も同様の見解を示しています。

最高裁判例(平成20年2月18日)

 この判例で、裁判官は、

と判示して、上記通説の立場に立つことを明確にしています。

親族相盗例の効果

 親族相盗例の適用により、

  • 直系血族、配偶者及び同居の親族の間で、横領罪(刑法252条)・業務上横領罪(刑法253条)・遺失物等横領罪(刑法254条)を犯した犯人は、その刑が免除される
  • その他の親族間で上記罪を犯したときには、被害者の告訴がなければ、検察官が公訴を提起できない(親告罪になる)

という効果が生じます。

親族の意義

 親族相盗例における「親族」の意義・内容は、民法(725条)の定めるところによるとするのが判例の立場です。

 内縁関係は、「親族」に含まないとするのが通説です。

親族関係を必要とする人的範囲

 窃盗罪について、親族相盗例が適用されるためには、犯人と

  • 被害品の占有者(管理者)

  • 被害品の所有者

の両方に親族関係がある必要があります。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(平成6年7月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗犯人が所有者以外の占有する財物を窃取した場合において、刑法244条1項が適用されるためには、同条1項所定の親族関係は、窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要するものと解するのが相当である

と判示ししました。

 横領罪と業務上横領罪については、「被害品の所有者」と「犯人に被害品の管理を依頼した委託者」とが異なる場合があります。

 この場合、刑法244条所定の親族関係がどの範囲で必要とされるかについての考え方は、

① 横領犯人と被害品の所有者との間に親族関係が必要

② 横領犯人と被害品の委託者との間に親族関係が必要かどうかは見解が分かれている

となります(詳細は以下で説明)。

 なお、遺失物等横領罪については、委託信任関係は問題にならないため、単に犯人と所有者との間に所定の親族関係があるかどうかを検討すれば足りることになります。

「① 横領犯人と被害品の所有者との間に親族関係が必要」について

 横領罪(刑法252条)・業務上横領罪(刑法253条)の保護法益は、窃盗罪と同様に、所有権その他の本権であるから、横領の犯人と被害品の所有者との間で、刑法244条所定の親族関係が必要とされることに異論はありません。

 犯人と被害品の管理を委託した者との間に親族関係があっても、被害品の所有者との間で親族関係がなければ、刑法244条の親族相当例の適用はなく、刑が免除されたり、犯罪が親告罪となることはありません。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判例(昭和6年11月17日)

 家屋の所有者から家賃の取立てを委任されていた父親に代わり、その息子である被告人が家賃の取立てをしたが、保管中に飲食遊興費など費消してしまった事案で

  • 父親の委託に基づいて占有を始めた物を横領した場合であっても、その物が父親の所有ではなく、親族以外の者の所有に属するときは、244条を適用すべきではない

と判示し、横領犯人と所有者との間で親族関係が必要とされることを明確にしました。

「② 横領犯人と被害品の委託者との間に親族関係が必要かどうかは見解が分かれている」について

 横領の犯人と被害品の管理を委託した者(委託者)との間でも、親族関係が必要とされるかについては、見解が分かれています。

 横領罪や業務上横領罪が所有権の侵害のほか、委託者との間の信頼関係を破る点にも重要な意味があることを考慮して、横領犯人と委託者との間でも親族関係が存在することが必要であると説く積極説と、横領罪・業務上横領罪は、所有権の侵害を中核とするものであることなどを理由として、委託者との間の親族関係までは必要とされないとする消極説があります。

 信頼関係違背は、これらの罪の重要部分であることや、親族相盗例は、親族間の紛争については親族間の自律に委ねる方が望ましいという政策的な考慮に基づくものであるところ、財物の委託者も直接の紛争当事者といえることからすれぱ、積極説が相当と考えられています。

成年後見人,未成年後見人による横領行為と親族相盗例

 成年後見人未成年後見人の地位にある者が、被後見人所有の財物の横領行為を行った場合に、刑法244条1項の親族相盗例が適用されるかが問題になります。

 結論は、たとえ後見人と被害者である被後見人との間に244条1項所定の親族関係が認められる場合であったとしても、親族相盗例が適用されるものではないとされています。

 この点について、以下の判例があります。

最高裁判例(平成20年2月18日)

 家庭裁判所から孫の未成年後見人に選任された被告人(被後見人の祖母)が、共犯者2名(被後見人の叔父夫婦)と共謀の上、後見の事務として業務上預かり保管中であった被後見人の預貯金を払い戻して横領したという業務上横領の事案で、

  • 家庭裁判所から選任された未成年後見人が業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合、未成年後見人と未成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、その後見事務は公的性格を有するものであり、同条項は準用されない

旨判示し、未成年後見人による横領事案につき、親族相盗例が適用されないことを明確にしました。

最高裁判例(平成24年10月9日)

 家庭裁判所から交通事故により植物状態となった養子の成年後見人に選任された被告人(被後見人の養親)が、後見の事務として業務上預かり保管中の被後見人の預貯金を払い戻して横領したという業務上横領罪の事案で、

  • 家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより、その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである

と判示しました。

 未成年後見人や成年後見人の事務の公的性格に照らすと、そのような立場の者が被後見人の財物を横領した場合には、もはや親族相盗例が想定する「家庭内」の場面とはいうことはできず、家庭内の一定の財産犯については国家が刑罰権行使を差し控えるべきとした親族相盗例の適用はそぐわなくなります。

後見人と後見人に選任されていない親族が、被後見人の財産を横領した場合の親族相盗例の適用

 自身は後見人に選任されていない親族が、後見人と共同して被後見人の財産を横領した場合に、親族相盗例の適用があるのかという問題が生じます。

 同じ横領罪を犯しているのに、後見人は親族相盗例は適用されずに処罰される一方で、親族は親族相盗例が適用されて刑が免除されることになれば、不均衡な結論が導かれてしまいます。

 なので、このような横領罪の共犯事案の場合、後見人のほか、親族にも親族相盗例は適用されないとされます。

 この点について、以下の判例があります。

仙台高裁判例(平成19年5月31日)(前記最高裁判例(平成20年2月18日)控訴審判決)

 家庭裁判所から孫の未成年後見人に選任された被告人(被後見人の祖母)が、共犯者2名(被後見人の叔父夫婦)と共謀の上、後見の事務として業務上預かり保管中であった被後見人の預貯金を払い戻して横領したという業務上横領の事案です。

 未成年後見人に選任されていた被害者の祖母のほか、同居していない被害者の叔父夫婦(刑法244条2項の親族)も共犯者として起訴され、これらの者について、告訴の有無という争点の前提として、告訴を訴訟条件とする244条2項の親族相盗例の適用が問題になりました。

 判決では、後見人として被後見人である未成年者の財産を横領する行為については、後見人となっている親族はもとより、そうでない共犯者である親族についても、親族相盗例が適用されないとの判断を示して、自らは後見人に選任されていない共犯者である親族についても親族相盗例の適用を否定しました。 

東京高裁判例(平成25年10月18日)

 成年後見人以外の親族が、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領するのに加担した場合について、

  • 家庭間の自律に委ねる趣旨の刑法244条2項が準用される余地のない成年被後見人のために、その財産を誠実に管理すべき成年後見人の法律上の義務違反行為に加担していることに帰するのであるから、成年後見人と同じく、家庭間の自律に委ねる趣旨の同項が準用される余地はないと解するべきである

として、被害者の告訴を欠く公訴提起に違法はないと判示しました。

青森地裁判例(平成20年6月20日)

 実子の成年後見人に就任していた妹からの依頼を受けて被後見人(被告人にとっては甥)の財産を事実上管理していた被告人(自身は後見人ではない)が、預かっていた被後見人の財産を着服横領したという業務上横領の事案です。

 犯人の弁護人は、被告人は被害者の伯父であるから、刑法255条, 244条2項が適用され、告訴がなければ公訴提起はできず、処罰条件を欠くと主張しました。

 判決では、成年後見人から委託を受けて第三者が遂行する財産管理行為も、間接的ながらも、家庭裁判所の監督の対象となっており、当該第三者が成年後見人から委託を受けて行う財産管理業務もまた公的な性格を有するから、親族相盗例は適用されないとして,弁護人の主張を退けました。

 ちなみに、上記3つの判例は、あくまで後見人の地位の公的性格に鑑み、そのような地位にある者に限って、政策的考慮に基づき、親族相盗例の適用を排除したものと解されます。

 なので、自らは後見人の地位になく、公的立場にあるとはいえない親族が横領を行った場合は、原則どおり、親族相盗例が適用される余地が出てくることになります。

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