法律(刑法)

誤想過剰防衛とは ~判例(東京高等裁判所判決 昭和59年11月22日)で解説~

 前回の記事では、正当防衛誤想防衛過剰防衛について書きました。

 今回の記事では、誤想防衛と過剰防衛の合わせ技「誤想過剰防衛」について書きます。

誤想過剰防衛とは?

 まず、「誤想防衛」とは、

侵害行為が存在しないのに、存在すると誤信して行った正当防衛行為

(勘違いでやってしまった防衛行為)

をいいます。

 つぎに、「過剰防衛」とは、

正当防衛の程度を超えた防衛行為

(やり過ぎてしまった防衛行為)

をいいます。

 これら「誤想防衛」と「過剰防衛」を合わせた防衛行為を「誤想過剰防衛」といいます。

 誤想過剰防衛を定義すると

急迫不正の侵害がないのに、侵害があるものと誤信して反撃し(誤想防衛)、しかも、その反撃が不相当である防衛行為(過剰防衛)

をいいます。

判例

 どんなケースで誤想過剰防衛が認められるか、有名判例を見てみましょう。

事件の内容

 空手3段のAが、Bと女性Cがもみ合って転倒したのをたまたま目撃した。

 Aは、Bが女性Cに暴行していると誤信(勘違い)した。

 Aは、女性Cを助けようとして、Bの顔面に回し蹴りをくらわした結果、Bを死亡させた。

 Aは、傷害致死罪で裁判にかけられた。

東京高等裁判所判決(S59.11.22)の内容

東京高裁が前提として言ったこと

 急迫不正の侵害があると誤信して防衛行為を行った場合、防衛行為が相当であったならば、誤想防衛として事実の錯誤(勘違い)として故意(相手を傷つけようとする意思)が阻却され、犯罪は成立しないと解するのが相当である。

(➡「誤想防衛であれば、傷害致死罪は成立しない」ということ)

 しかし、誤信して行った防衛行為が相当性を欠き、過剰であるときは、事実の錯誤(勘違い)として故意の阻却は認められない。

(➡「誤想防衛が過剰であれば、相手を傷つけようとする意思が認められ、誤想過剰防衛となり、傷害致死罪が成立する」ということ)

 ただ、この場合においては、正当防衛との均衡上、過剰防衛に関する刑法36条2項に規定に準拠して、刑の軽減または免除をなし得る。

(➡「誤想過剰防衛に対しては、刑の軽減または免除ができる」ということ)

分かりやすくいうと

 分かりやすく言うと、勘違いによる防衛行為だったとしても、強すぎる力で相手を攻撃したのなら、

「勘違いではすまさないよ」

「相手を傷つけようとする意志(故意)が認められるよ」

「だから犯罪は成立するよ」

というわけです。

 とはいえ、救済措置として、

「刑を軽くするか(刑の軽減)、刑罰を科さない(刑の免除)ことができるよ」

といっているのです。

この前提を踏まえ今回の事件に関して裁判所が下した判決

 Aの行為は、防衛行為として、必要かつ相当の程度を超え、相当性を欠くことは明らかである。

 Aが回し蹴りをしたことについては、Aの認識に錯誤(勘違い)はない。

 したがって、誤想防衛は存在せず、誤想過剰防衛が存在するに過ぎない。

分かりやすく言うと

 Aが回し蹴りという強すぎる攻撃をBにくらわせたことは、Aは故意で(自覚して)やっているのであり、そこに勘違いはない。

 Aは、回し蹴りという過剰攻撃をした事実については、錯誤(勘違い)していない。

 過剰な攻撃を故意にやっているのだから、誤想防衛は成立せず、誤想過剰防衛が成立する。

というわけです。

判決内容

東京高裁では、

  • Aには傷害致死罪が成立する
  • しかし、誤想過剰防衛にあたるので、刑を軽減する。

という判決となりました。

最高裁判所の決定(S62.3.26)

 この事件は、上告され、最高裁判所も審議するところとなりました。

 最高裁判所は、東京高裁の判決を支持し、

  • 本件回し蹴り行為は、Aが誤信した急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることは明らかである
  • Aには傷害致死罪が成立する
  • しかし、誤想過剰防衛にあたるので、刑を軽減した東京高裁の判決は妥当である。

と判断(決定)をくだしています。

次回

 これで、正当防衛に関する記事(正当防衛誤想防衛過剰防衛、誤想過剰防衛)は終わりです。

 次は、正当防衛と比べながら考えると理解しやすくなる「緊急避難」について説明します。