前回の記事の続きです。
看守者逃走援助罪における共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯の考え方
看守者逃走援助罪(刑法101条)における共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯の考え方を説明します。
看守者逃走援助罪が成立する場合は、逃走罪(単純逃走罪、加重逃走罪)の共同正犯(共犯)は成立しない
被拘禁者自身につき逃走罪(単純逃走罪、加重逃走罪)が成立する場合であっても、被拘禁者を逃走させた看守者は看守者逃走援助罪により処罰され、逃走罪の共同正犯(共犯)として処罰されるのではないと一般に解されています。
つまり、逃走が実行されて被拘禁者に逃走罪が成立するに至ったとしても、逃走させた者(看守者)には、看守者逃走援助罪のみが成立します。
その理由として、
- 看守者逃走援助罪と逃走罪は、本来共犯関係に立つものが別個の構成要件に書き分けられたものであるから、刑法総則の共犯規定の適用を排除すること
- 看守者逃走援助罪と逃走罪とは対向犯に当たり、その内部関係において共犯規定の適用がないこと
が挙げられています。
被拘禁者以外の第三者が看守者逃走援助罪に関与した場合に、看守者逃走援助罪の共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯が成立するか?
この点に関しては、看守者逃走援助罪は正犯であるので、看守者逃走援助罪の共同正犯(共犯)、教唆犯、幇助犯が成立し得ると解されています。
看守者逃走援助罪の共同正犯(共犯)の成否関する見解として、
- 看守者逃走援助罪の身分を有しない第三者が、看守者に加担し、看守者逃走援助罪に加功した場合については、看守者逃走援助罪を逃走援助罪(刑法100条)の身分による加重類型(不真正身分犯)とみる立場からは、非身分者には刑法65条2項が適用されて逃走援助罪の刑が科されることになるとする見解
- 看守者逃走援助罪の身分を構成的身分(真正身分犯)とみる立場からは、刑法65条1項が適用されて看守者逃走援助罪の共犯の成立を認めることになるとする見解
- 看守者逃走援助罪が不真正身分犯としても、看守者逃走援助罪を独立罪として性格づけるのなら、独立罪に解釈論上、総則の共犯規定を適用する余地はないから、非身分者に対しては刑法65条2項を適用しないで最初から逃走援助罪の適用を認めれば足るとする見解
があります。
被拘禁者自身に看守者逃走援助罪の教唆犯が成立するか?
被拘禁者自身が看守者を教唆し、自己を逃走させるため、看守者逃走援助罪を実行させた場合に、被拘禁者自身に看守者逃走援助罪の教唆犯が成立するかについては、被拘禁者は逃走罪(単純逃走罪、加重逃走罪)の要件を具備するに至った場合には、逃走罪で処罰されるのであって、看守者逃走援助罪の教唆犯としては処罰されません。
罪数の考え方
看守者が一度に数名の被拘禁者を逃走させた場合は、被拘禁者を逃走させた数の看守者逃走援助罪が成立し、各看守者逃走援助罪は観念的競合の関係となり、一罪になると解されています。