詔書偽造罪、詔書変造罪(刑法154条)を説明します。
この記事では、詔書偽造罪、詔書変造罪を「本罪」といって説明します。
詔書偽造罪、詔書変造罪とは?
本罪は、刑法154条に規定があり、
第1項 行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造した者は、無期又は3年以上の拘禁刑に処する
第2項 御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も、前項と同様とする
と規定されます。
「御璽」とは「天皇の印章」をいいます。
「国璽」とは、「日本国の印章」をいいます。
「御名」とは、「天皇の署名」を意味します。
本罪は、
詔書等の天皇文書の有形偽造、有形変造を他の一般の公文書の有形偽造、有形変造よりも重く処罰するもの
です。
天皇は日本国と日本国民統合の象徴であり、国会の指名に基づき内閣総理大臣を、内閣の指名に基づき最高裁判所長官をそれぞれ任命し、各種の国事行為を行うことが定められており(憲法1条、6条、7条)、そのような天皇の文書を偽造・変造する行為は厳しく罰せられます。
罪名
第1項の罪名は、「詔書偽造罪」となります。
第2項の罪名は、「詔書変造罪」となります。
未遂規定
本罪の未遂罪を罰する規定はありません。
しかし、御璽等偽造・不正使用罪を規定する刑法164条が、本罪の未遂に当たる行為の一部を処罰する役割を果たしています。
詔書偽造罪(第1項)の説明
主体(犯人)
詔書偽造罪の主体に限定はありません。
誰でも詔書偽造罪を犯す主体(犯人)となり得ます。
客体
詔書偽造罪の客体は、
です。
「詔書」とは、
天皇が一定の国事に関する意思表示を公示するために用いる文書
です。
例えば、
- 国会召集の詔書
- 衆議院解散の詔書
が該当します。
「その他の文書」とは、
詔書以外の天皇名義の公文書
を指します。
例えば、
- 法律・政令・条約などに付される公布文書
- 内閣総理大臣・最高裁判所長官を任命する文書
- 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免の認証文書
- 全権委任状及び大公使の信任状の認証文書
- 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権についての認証文書条約の批准書
- 法律の定めるその他の外交文書の認証文書
が該当します。
天皇の私文書は含まれず、これを偽造・変造した者は、私文書偽造罪(刑法159条)によって処罰されるというのが通説です。
行為
詔書偽造罪の行為は、
- 行使の目的を持って、真正の御璽、国璽、御名を使用して詔書等を偽造すること
又は
- 偽造した御璽、国璽、御名を使用して詔書等を偽造すること
です。
「偽造」とは有形偽造の意味です。
有形偽造とは、
内容の真偽を問わず、文書の作成権限を有しない者が他人の名義を偽って文書を作成すること
をいいます。
無形偽造は刑法156条(虚偽公文書作成等)で他の一般の公文書と同様に処罰されます。
無形偽造とは、
文書の作成権限を有する者が内容虚偽の文書を作成すること
をいいます。
偽造した御璽、国璽、御名を「使用」するとは?
御璽、国璽を「使用する」とは、
ほしいままに作成した印顆を文書に押捺し、又は物体上に顕出された印影を文書の一部として利用すること
をいいます。
御名を「使用する」とは、
ほしいままに物体上に記されたものを文書の一部として利用すること
です。
詔書変造罪(第2項)の説明
主体(犯人)
詔書変造罪の主体に限定はありません。
誰でも詔書変造罪を犯す主体(犯人)となり得ます。
客体
詔書変造罪の客体は、
御璽、国璽、御名を使用して作成された詔書等の天皇文書
です。
行為
詔書変造罪の行為は、
行使の目的を持って、「御璽、国璽、御名を使用して作成された詔書等の天皇文書」を変造すること
です。
「行使の目的を持って」することを要します。
行使の目的なしに上記天皇文書を変造しても、本罪は成立しません。