刑法(有印公文書偽造罪)

有印公文書偽造罪(1)~「刑法155条の公文書偽造・変造の罪」を説明

 これから16回にわたり、有印公文書偽造罪(刑法155条1項)を説明します。

刑法155条の公文書偽造・変造の罪

 刑法155条は、公文書の

  • 有形偽造(文書の作成権限がない人が他人名義の文書を作成すること)
  • 有形変造(文書の作成権限がない人が真正な文書の内容を改ざんすること)

を処罰する規定であり、

第1項 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、1年以上10年以下の拘禁刑に処する

第2項 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする

第3項 前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、3年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する

と規定します。

罪名

 第1項の罪名は、「有印公文書偽造罪」となります。

 第2項の罪名は、「有印公文書変造罪」となります。

 第3項前段の罪名は「無印公文書偽造罪」となります。

 第3項後段の罪名は「無印公文書変造罪」となります。

私文書偽造・変造罪よりも法定刑が重い

 刑法155条の公文書の偽造・変造の罪の法定刑は、1年以上10年以下の拘禁刑です。

 刑法159条の私文書の偽造・変造罪の法定刑は、3月以上5年以下の拘禁刑です。

 「公文書の偽造・変造の罪」が、「私文書の偽造・変造罪」の法定刑よりも重いのは、公文書は、公務員又は公務所の職務権限内において作成されるべきものであり、その性質上、公正であるとみなされ、一般に対する証拠力及び信用力が厚く、この偽造・変造による被害の程度も、私文書の偽造・変造の場合よりも大きいことによります。

有印の公文書偽造・変造罪は、無印の公文書偽造・変造罪より法定刑が重い

 有印の公文書偽造・変造罪(刑法155条1項・2項)の法定刑は、1年以上10年以下の拘禁刑です。

 これに対し、無印の公文書偽造・変造罪(刑法155条3項)の法定刑は、3年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金です。

 「有印の公文書偽造・変造罪」の方が、無印の公文書偽造・変造罪より重く処罰されます。

 これは、公務所、公務員の印章・署名のある公文書の方がそれらを欠く公文書に比べて高い信用性が認められるためです。

公文書の偽造・変造の罪は、行為者(犯人)が公務員である必要はない

 刑法155条の公文書の偽造・変造の罪は、文書自体の性質の違い(公文書か、私文書か)に着眼するものであり、文書作成者の身分(公務員か、非公務員か)により成立要件が変わるものではありません。

 この点、参考となる以下の判例があります。

最高裁判決(昭和33年5月30日)

 裁判所は、

  • 刑法第156条は信用度の高い公文書の無形偽造を私文書と異つて特に処罰することにしたものであって、その保護法益は公文書の信用性に存し、行為者が公務員であるか否かによってその保護に軽重を設けた規定ではない

と判示しました。

最高裁決定(昭和34年9月22日)

 裁判所は、

  • 刑法第158条第1項の偽造公文書行使罪の法定刑が同法第161条第1項の偽造私文書行使罪のそれより重いのは、その保護法益である公文書の信頼度が私文書のそれより高いことに基くものであつて、その文書作成名義者の身分による差別ではない

と判示しました。

未遂規定

 刑法155条の公文書の偽造・変造の罪の未遂罪を罰する規定はありません。

 しかし、

  • 公印等偽造・不正使用罪を規定する刑法165条(公印偽造罪)
  • 公記号偽造・不正使用罪を規定する刑法166条(公記号偽造罪、公記号不正使用罪)

が、有印公文書偽造罪の未遂に当たる行為の一部を処罰する役割を果たしています。

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