刑法(有印公文書偽造罪)

有印公文書偽造罪(10)~「文書偽造とは、『一般人が真正な文書であると誤信するに足りる程度の形式・外観を備えている文書を作成すること』をいう」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、有印公文書偽造罪(刑法155条1項)を説明します。

文書偽造とは、「一般人が真正な文書であると誤信するに足りる程度の形式・外観を備えている文書を作成すること」をいう

 文書偽造とは、

一般人が真正な文書であると誤信するに足りる程度の形式・外観を備えている文書を作成すること

をいいます。

 そのような真正な文書であるという外観が備わっていれば、

  • 無効な文書
  • 実際は作成権限のない者を作成名義人とする文書

であっても、偽造文書となります。

 この点、参考となる以下の判例があります。

大審院判決(大正元年10月31日)

 裁判所は、

  • 公文書偽造罪の成立には、文書の形式又はその内容を偽りたる所為が、一般人をして公務所又は公務員の権限内において作成したる文書なりと信せしむる程度において、その形式外観を具有し、公文書の信用を害すべき危険あるをもって足り、その文書の日付当時、これに署名する公務員の生存したるや否やは、同罪の成立要件に非ず

と判示しました。

最高裁決定(昭和52年4月25日)

 被告人が窃取した他人の自動車運転免許証に自己の写真を貼り替えて、あたかも自己が自動車運転免許証の交付を受けた本人であるかのように偽造した上、これを交通取締りの警察官に提示したところ、警察官臨直ちに免許証の有効期間の経過に気付いたが、免許証が真正に作成されたものであると誤信したまま無免許運転の取調べに入ったという事案です。

 裁判所は、

  • 当該偽造運転免許証は、有効期間を経過した時点であっても、警察官をして免許証自体は真正に作成されたものであって被告人が当該運転免許を受けたものであると誤信させるに足りる外観を具備していたことが明らかであるから、右提示行為をもって偽造公文書の行使に当たるとした原判断は正当である

と判示しました。

東京高裁判決(平成18年10月18日)

 実際は作成権限のない者を作成名義人として偽造された町議会議事録を公文書偽造罪の客体と認めた事案です。

 裁判所は、

  • 作成権限のない町議会事務局長が公印を用いずに作成した町議会議事録であっても、議事録には「臨時町議会議事録」という標題があり、各議決がされたことやそれにいたる経緯等町議会の議事録にふさわしい内容が記載されており、作成者とされる当該事務局長も、そういった議事録の作成権限を付与されているとみられる可能性の十分ある地位・立場の者であって、少なくとも無権限者と一見して看取されるといった地位・立場の者ではなく、しかも、その氏名は、実際の当時の担当者と同一であったとして、一般人をして、町議会事務局長という公務員がその職務権限の範囲内でその職務に関して作成したものと信じさせるに足りる形式・内容を備えたもので、公文書偽造罪に該当する

と判示しました。

【参考】文書の偽造の概念に関する説明

 以下の記事で、文書の偽造の概念に関する説明をしています。

文書偽造・変造の罪(9)~偽造の概念①「偽造内容の真否と文書偽造罪の成否」を説明

文書偽造・変造の罪(10)~偽造の概念②「偽造の程度(偽造文書は、一見して真正文書と誤信されるようなものでなければならない)」を説明

文書偽造・変造の罪(11)~偽造の概念③「偽造罪の既遂時期」を説明

文書偽造・変造の罪(12)~偽造の概念④「『文書の名義人』と『文書の作成者』は区別される」を説明

文書偽造・変造の罪(13)~偽造の概念⑤「『文書の名義人』と『文書の作成者』は区別される」を説明

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