前回の記事の続きです。
この記事では、有印公文書偽造罪(刑法155条1項)を説明します。
「行使の目的」とは?
有印公文書偽造罪は、刑法155条1項に規定があり、
行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、1年以上10年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
偽造罪は目的犯であり、偽造文書の作成についての認識があることに加えて、
行使の目的という主観的違法要素
の存在が必要とされています。
偽造文書や虚偽文書は、人が認識可能な状態に置かれることによって、初めて公共の信用を害することになるので、「行使の目的」は法益侵害結果を主観的要素の形で取り込むものとされます。
「行使の目的」とは、
他人をして偽造文書・虚偽文書を真正・真実な文書と誤信させようとする目的
をいいます。
「行使の目的」の「行使」とは、
偽造文書・図画(とが)を真正な文書・図画として、虚偽文書・図画を内容真実な文書・図画として「使用」すること
をいいます(大審院判決 明治44年3月24日、大審院判決 大正6年4月12日)。。
「使用」とは、
人に文書の内容を認識させ、又は、認識可能な状態に置くこと
をいいます(最高裁判決 昭和44年6月18日)。
「行使の目的」は、
- 必ずしも本来の用法に従って、これを真正なものとして使用することに限るものではなく、真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足る(最高裁決定 昭和29年4月15日)
- 不正に使用される予見があれば、作成者自身において使用する目的は必要ない。偽造者自らこれを行使する意思あることを要するものではない(福岡高裁判決 昭和25年12月21日、最高裁判決 昭和28年12月25日)
とされます。
利害関係人であれば、文書の名宛人に使用する目的に限らず、広く効用に役立たせる目的があれば足り、自ら使用する目的か否かを問いません。
文書の本来の用法に従って当該文書を使用する目的でなくとも、何人かによって真正・真実な文書として誤信される危険があることを意識している以上、行使の目的があるものといえます。
行使の目的は、未必的なもので足ります。