前回の記事の続きです。
この記事では、有印公文書変造罪(刑法155条2項)について説明します。
有印公文書変造罪における「公務所、公務員」とは?
有印公文書変造罪の客体は、
- 公務所又は公務員が押印し又は署名した文書(公文書)
- 公務所又は公務員が押印し又は署名した図画(公図画:こうとが)
です。
この記事では、有印公文書変造罪の客体である「公務所又は公務員が押印し又は署名した文書・図画」における「公務所、公務員」について説明します。
「公務員」とは、
国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員
をいいます(刑法7条1項)。
「公務所」とは、
官公庁その他公務員が職務を行う所
をいます(刑法7条2項)。
「みなし公務員」も「公務員」に含まれる
「公務員」には、他の法令において、公務員とみなされる者も含まれます。
例えば、
- 公共性の高い事業を行う公団や事業団
- 公庫等に勤める職員
は公務に従事しているとみなされていることが多く、「みなし公務員」と略称されます。
具体的に、みなし公務員は、「①その所属している団体の職務の性質に鑑み、公務員とみなされている者」として、
- 日本銀行の役職員(日本銀行法30条)
- 国立大学法人の役職員(国立大学法人法19条)
- 国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会の事務職員(国家公務員共済組合法13条・36条、最高裁判決 昭和47年5月25日)
が該当し、「②特定の公的な事務に従事していることに鑑み、公務員とみなされている者」として、
- 自動車検査員(道路運送車両法94条の7)
- 都道府県公安委員会指定自動車学校の終了検定及び卒業検定の技能検定員(道路交通法99条の2第3項)
- 郵便認証司、内容証明の業務に従事する者、特別送達の業務に従事する者(郵便法74条)
- 準起訴手続における指定弁護士(刑訴法268条3項)
が該当します。
外国の公務所、公務員は、文書偽造罪における公務員には該当しない
公務所、公務員は、日本国の公務所、公務員に限られ、外国の公務所、公務員は含まれません。
文書変造罪においては、外国の公務所、公務員が作成した文書・図画は、私文書として扱われ、それを変造すれば、公文書変造罪ではなく、私文書変造罪が成立します。
参考となる判例として、以下のものがあります。
最高裁決定(昭和32年4月25日)
公文書偽造罪の判例ですが、考え方は公文書変造罪にも当てはまります。
米合衆国軍人用販売機関名義の輸入免税申告書を偽造して行使した事案で、同申請書は私文書であるとし、私文書偽造罪(刑法159条)、偽造私文書行使罪(刑法161条)が成立するとした判決です。
裁判所は、
- 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律第2条第6項に規定する軍人用販売機関名義の輸入免税申告書は、私文書である
と判示しました。