前回の記事の続きです。
この記事では、公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)を適宜「本罪」といって説明します。
公正証書原本不実記載罪により作成された戸籍原本の記載部分は没収することができない
公正証書原本不実記載罪により作成された戸籍原本の記載部分は公務所に属するから没収することはできません。
この点を判示したのが以下の裁判例です。
東京高裁判決(昭和35年9月13日)
裁判所は、
- 当裁判書は職権をもって調査するに、原判決は、東京都品川区役所戸籍課備えつけの筆頭者Aの戸籍原本中、B、C、Dの各欄は判示第一の不実記載罪から生じたもの宮城県登米郡迫町役場備えつけの筆頭者Eの戸籍原本中、Fの欄は判示第ニの不実記載罪から生じたものであって何人の使用をも許さないものであるから、刑法第19条第1項第3号、第2項の法意に則り、それぞれこれを没収すべきものとし主文においてその没収を言い渡しているが、公務員に対し虚偽の申し立をなし、権利義務に関する公正証書の原本に不実の記載をなさしめこれを公務所に備付けしめた場合において、右の記載は公務員がその権限に基き適法に作成したものであるから、たとえその内容が当事者の虚偽の申立により事実に反する場合といえども、偽造文書の類とは異り、同文書の記載部分は当該公務所に属し、これを刑法第19条第2項の犯人以外の者に属せざるもの又は何人の所有も許さないものということはできないから(昭和3年(れ)第1、777号昭和4年1月31日大審院第ニ刑事部判決参照)、原判決が刑法第19条第1項第3号、第2項の法意に則りこれを没収する旨言い渡したのは、法令の適用を誤ったものでその誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない
と判示しました。