刑法(公正証書原本不実記載罪等)

公正証書原本不実記載罪(6)~本罪の行為④「中間省略登記は公正証書原本不実記載罪を構成しない」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)を説明します。

中間省略登記は公正証書原本不実記載罪を構成しない

 数次の所有権移転について、登記名義人であった最初の所有権者から、中間の移転登記を省略して、最後の所有権取得者に対して直接に所有権を移転したように申請し、登記官をして、登記簿にその旨を記載させる中間省略登記は、民事上は、かつて無効とされたましたが、その後有効とされるにいたっています。

 中間省略登記を有効と判示したのが以下の判例(民事)です。

大審院判決(大正5年9月12日)

 裁判所は、

  • 所有者BよりCに不動産を譲渡したるも、登記名義は、旧所有者Aなる場合において、当事者の特約に基づき、Aより直接にCに不動産を譲渡したる旨の所有権移転登記を為すは、真実の事実に適合せざる登記なりとして無効なりというを得ず

と判示ました。

 しかしながら、中間省略登記が民事上有効とする判例があってからも、刑事上は、中間省略登記は公正証書原本不実記載罪に当たるとの判決がなされています。

大審院判決(大正8年12月23日)

 裁判所は、

  • 当事者間に直接所有権移転の行為存在せざるにかかわらず、あたかもその行為存在するものの如く虚偽の事実を記載する登記申請書を提出し、これにより登記官吏をして登記簿に不実の記載を為さしめたる行為は、公正証書たる不動産登記簿の所有する公の信用を害するものにして刑法第157条の犯罪を構成するものとす

と判示しました。

 学説では、登記をするのは当事者の任意であり、登記を欠くときは権利の移転について第三者に対抗し得ないだけであるから(民法177条)、中間省略登記も登記自体としては有効であるとし、中間省略された登記部分は重要な点に当たらないとして、本罪が成立しないとします。

 そして、その後、刑事判例においても、中間省略登記について本罪の成立を認めたものはなく、適法と解する余地があるとする以下の東京高裁判決もあり、上記の判例は、実際上、変更されたものと解されています。

東京高裁判決(昭和27年5月27日)

 裁判所は、

  • 甲、乙、丙間に順次所有権が移転された場合に、甲から直接丙に所有権が移転されたもののように登記するいわゆる中間省略の登記は民法上有効なものとされているのであって、刑法上においても公正証書原本不実記載罪の成立なしと解する余地はある

と判示しました。

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