前回の記事の続きです。
この記事では、公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)を適宜「本罪」といって説明します。
真実の権利者への移転登記でも、虚偽の登記申請であれば、公正証書原本不実記載罪を構成する
判例は、不動産の所有者が登記上他人名義で登記されている場合に、その他人の承諾もなく、これを自己に売渡しを受けた旨の虚偽の登記申請をなし、その旨登記簿原本に記載させたときは本罪が成立するとします。
裁判官は、
- たとい不動産の真実の所有者であっても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因とし、かつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原本にその旨の記載をさせたときは、刑法第157条第1項の罪が成立する
と判示しました。
裁判所は、
- 登記係員に対し偽造の文書を添付して虚偽の登記申請をなし、これを欺罔して登記簿原本に、その申請どおりの記載をなさしめたときは、仮にその記載内容自体は、実際の権利法律関係と相違するところがなくても、なお、登記簿原本に不実の記載をなさしめたものとして、公正証書原本不実記載罪が成立する
と判示しました。
裁判所は、
- 不動産の所有名義人との間に現実の売買の事実がないのに、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなどしたときは、たとえ当該不動産の真実の所有者が申立人であり、名義人が将来その登記名義を申立人に変更することをあらかじめ了解していたとしても、公正証書原本不実記載罪の成立を免れない
と判示しました。
一般に、真実の権利者に対する移転登記申請でも、虚偽の権利移転行為を原因とする登記申請により所有権移転登記を行うときは本罪に当たるとされます。
この点を判示した以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和56年8月25日)
真実の権利者に対する場合であっても、虚偽内容の権利移転行為を原因とする登記申請により所有権移転登記を行うことが公正証書原本不実記載罪を構成するとされた事例です。
裁判所は、
- 所論(※弁護人の主張)は、共有持分権者であるA子ことA子の死亡に伴い同女の夫であるBがその権利を相続したのに、相続登記に必要な書類が整わないため、やむなく右のような形で同人への移転登記を行ったに過ぎないのであるから、中間省略登記に違法性が認められないのと同様、その行為には違法性が認められないと主張するが、虚偽内容の権利移転行為及びそれを原因とする登記申請によって登記を行うことは、それらの効力を争いうる立場にある関係者の権利に影響するところが大きく、それ自体登記簿の有する公の信用を害する行為であるから、たとい真実の権利者に対して権利の移転登記を行った場合であっても、その違法性はこれを肯認すべきものであって、中間省略の形で権利の移転と登記申請を行うことに利害関係者の意思が一致している中間省略登記の場合とは趣を異にするといわなければならない
と判示しました。