前回の記事の続きです。
この記事では、公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)を説明します。
会社が不存在であるに会社設立の登記申請をした場合は、公正証書原本不実記載罪を構成する
会社の設立、増資にあたっての見せ金による払込みの私法上の効力については、民事上、無効とされています(最高裁判決 昭和38年12月6日)。
刑事上も、見せ金により、株式の払込みをしたのみで、なんらの設立手続が行われていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記申請をし、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪が成立とされます。
裁判所は、
- いわゆる見せ金により、株式の払込を仮装したのみで、なんら設立手続が行なわれていないため、会社が不存在であるにかかわらずその設立の登記を申請し、登記官をして商業登記簿の原本にその旨記載させたときは、登記事項のすべてに関し公正証書原本不実記載罪合が成立する
と判示ました。
この判決後の判例では、払込み仮装の態様がいかなるものであれ、すべて払込みが仮装であるときは、会社の設立又は増資の登記申請は公正証書原本不実記載罪を構成するとしました。
最高裁判決(昭和41年10月11日) 集20巻8 号817 頁)、
裁判所は、
- 会社の設立又は増資に際し、株金の払込が仮装のものであるにかかわらずこれを秘し、その株式引受人による払込が完了し、設立又は増資をした旨の登記申請をなし、商業登記簿の原本にその記載をなさしめたときは、商法第188条第2項第5号「発行済株式の総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する
と判示しました。
さらにその後の判例で、見せ金による増資の登記申請は公正証書原本不実記載罪を構成するとしました。
最高裁判決(昭和47年1月18日)集26巻1号1 頁)
裁判所は、
- 増資に際し、株金の払込がいわゆる見せ金によってされた仮装のものであるにかかわらず、その株式引受人による払込が完了して、増資をした旨の登記申請をし、商業登記簿の原本にその記載をさせたときは、昭和41年法律第83号による改正前の商法188条2項5号の「発行済株式の総数」に関し、公正証書原本不実記載罪が成立する
としました。
さらにその後の判例で、増資会社が新株引受人に対する債権を有する点で典型的な見せ金による払込みの場合とは異なっていても、右債権が全く名目的なもので、会社の実質的な資産と認められないときは、右払込みは仮装のものであって、増資の登記申請は公正証書原本不実記載罪を構成するとしました。
裁判所は、
- 増資の際、株式の払込みは、当初から真実の払込みとして会社資金を確保させる意図はなく、会社と名目的な引受人との合意に基づき、引受人が会社自身又は他から一時借り入れた金員をもって単に払込みの外形を整えた後、会社において直ちに右払込金を払い戻して、借入金の返済等に充て、あるいは払込金を会社名義の定期預金とした上これに質権を設定したものであり、会社が取得した引受人に対する債権及び右定期預金債権が会社の実質的な資産とは認められない本件事案の下においては、右払込みは、仮装のものであって、商業登記簿の原本に増資の記載をさせた行為は、公正証書原本不実記載罪に当たる
と判示しました。
さらにその後の判例で、新株の引受人が会社から第三者を介して間接的に融資を受けた資金によってした新株の払込みは無効であって、増資の登記申請は電磁的公正証書原本不実記録罪に当たるとされるにいたっています。
裁判所は、
- 甲社の増資の際、新株の引受人である乙社が、甲社から丙社、丙社から乙社へと順次融資により移動した甲社の資金により新株の払込みをし、上記融資により甲社が取得した丙社に対する債権が丙社との合意などから甲社の実質的な資産と評価することができないなど判示の事情の下においては、上記払込みは無効であり、甲社の商業登記簿の原本である電磁的記録に上記増資の記録をさせた行為は、電磁的公正証書原本不実記録罪に当たる
と判示しました。