刑法(偽造公文書等行使罪)

偽造公文書等行使罪(1)~「偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪とは?」「罪名」「法定刑」を説明

 これから10回にわたり、偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等(刑法158条)を説明します。

 この記事では、適宜、刑法158条を「本条」、偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等を「本罪」といって説明します。

偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪とは?

 偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等は、刑法158条に規定があり、

第1項 第154条から前条まで(第154条:詔書偽造・変造罪、第155条:公文書偽造・変造罪、第156条:虚偽公文書作成罪、第157条:公正証書原本不実記載罪等、免状等不実記載罪)の文書若しくは図画を行使し、又は前条第1項(公正証書原本不実記載罪等)の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する

第2項 前項の罪の未遂は、罰する

と規定します。

 本条(刑法158条)は、

偽造公文書と虚偽公文書等の「行使」に対する処罰をまとめて規定し、その未遂罪の処罰規定を定めたもの

です。

 なお、電磁的記録(刑法7条の2)の不正作出・供用は、別途、処罰規定が刑法161条の2(電磁的記録不正作出罪)で定められており、同条により処罰されるものにいては、本条の規制の対象外とされます。

罪名

 本条の罪名は、

  • 刑法154条の詔書偽造・変造罪の行使つき、「偽造証書行使罪」「変造証書行使罪」
  • 刑法155条の有印公文書偽造・変造罪の行使につき、「偽造有印公文書行使罪」「変造有印公文書行使罪」
  • 刑法155条の無印公文書偽造・変造罪の行使につき、「偽造無印公文書行使罪」「変造無印公文書行使罪」
  • 刑法156条の虚偽有印公文書作成罪の行使につき、「虚偽有印公文書行使罪」
  • 刑法156条の虚偽無印公文書作成罪の行使につき、「虚偽無印公文書行使罪」
  • 刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪の行使につき、「不実記載公正証書原本行使」
  • 刑法157条1項の電磁的公正証書原本不実記録罪の行使につき、「不実記録電磁的公正証書原本共用罪」
  • 刑法157条2項の免状不実記載罪、鑑札不実記載罪、旅券不実記載罪につき、「不実記載免状行使罪、不実記載鑑札行使罪、不実記載旅券行使罪」

となります。

法定刑

 本条(刑法158条)の条文中ににある「…その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処する」とは、本罪の法定刑は、

刑法154条(詔書偽造・変造罪)、刑法155条(公文書偽造・変造罪)、刑法156条(虚偽公文書作成罪)、刑法157条(公正証書原本不実記載罪等、免状等不実記載罪)と同じ法定刑である

という意味です。

 本条の法定刑は、刑法161条(虚偽公文書作成・変造罪)の定める偽造私文書行使罪の刑に比して重く定められていますが、これは、

本条の保護法益が、公文書偽造罪と同様に、公文書の公共的信用ということにあり、一般に公文書の信用度が私文書のそれに比して高いという違いに基づくため

です。

 この点を判示したのが以下の判例です。

最高裁決定(昭和34年9月22日)

 偽造外国人登録証明書(公文書)の行使につき、憲法14条違反の有無が問題となり、 刑法158第1項(偽造公文書行使罪)の法定刑が刑法161条(虚偽公文書作成・変造罪)のそれより重いのは身分による差別か否かが争点になった事例です。

 裁判所は、

  • 刑法第158条第1項の偽造公文書行使罪の法定刑が同法第161第1項の偽造私文書行使罪のそれより重いのは、その保護法益である公文書の信頼度が私文書のそれより高いことに基くものであって、その文書作成名義者の身分による差別ではない

と判示ました。

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