前回の記事の続きです。
この記事では、偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等(刑法158条)を適宜「本罪」といって説明します。
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に特段の制限はありません。
公務員が主体(犯人)である必要はありません。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(明治43年5月31日)
裁判所は、
- 刑法第158条第1項は、その前4条※に記載する文書又は図画を行使したる者の公務員たると否とを区別せざれば、公務員に非ざる者がこれらの文書又は図画を行使したる場合にも適用せらるべきものとす
と判示ました。
※ 前4条…刑法154条:詔書偽造・変造罪、刑法155条:公文書偽造・変造罪、刑法156条:虚偽公文書作成罪、刑法157条:公正証書原本不実記載罪等、免状等不実記載罪
客体
本罪の客体は、
- 刑法154条(詔書偽造・変造罪)、刑法155条(公文書偽造・変造罪)、刑法156条(虚偽公文書作成罪)、刑法157条(公正証書原本不実記載罪等、免状等不実記載罪)における文書、図画(とが)
- 刑法157条1項(公正証書原本不実記載罪、電磁的公正証書原本不実記録罪)における電磁的記録
です。
具体的には、
- 偽造・変造された詔書その他の文書(刑法154条)
- 偽造・変造された公務所又は公務員の作成すべき文書·図画(刑法155条)
- 公務員が職務に関して作成するなどした虚偽の文書・図画(刑法156条)
- 公務員対し、虚偽の申立てをして不実記載をさせた公正証書の原本・免状・鑑札・旅券
- 公務員対し、虚偽の申立てをして不実記録させた公正証書原本として用いられる電磁的記録(刑法157条)
が該当します。
行使の客体となる文書は、行使の目的をもって作成されたものに限定されず、偽造され、あるいは虚偽記載がされた文書であれば足ります。
行使の客体となる文書は、必ずしも行使の犯人自らが偽造・変造した文書であることを要せず、他人が偽造・変造をした文書について、これを真正なものとして使用すれば行使罪が成立し得えます。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(明治41年12月21日)
裁判所は、
- 刑法第159条第1項は、他人の署名又は偽造したる他人の印章を使用して文書を偽造して未だ行使せざる場合を処罰し、また、同法第161条第1項は、他人の偽造したる文書を犯人が行使したる場合を処罰するのみならず、犯人が自ら偽装したる場合をも処罰するものなることは、その条文に徴して判然たり
と判示しました。
行使の客体となる文書は、偽造・変造が犯罪行為によるものである場合に必ずしも限定されません。
例えば、他人が偽造・変造をした文書について、たとえ当該他人が偽造の際に行使の目的(故意とは別途に必要とされる主観的要件である)を有しておらず、その意味でその者につき偽造罪が成立しない場合であったとしても、その文書が客観的に見て偽造文書である以上は、行使の客体となり得えます。
この点に関する以下の判例があります。
大審院判決(明治45年4月9日)
裁判所は、
- 刑法第161条第1項は、偽造・変造の文書を行使したる者を罰するの旨趣にして、その偽造・変造の行為が犯罪行為たると否とはこれを問う要なし
と判示しました。
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のいずれの場合も、文書自体に着目してみれば、文書の真正に対する公共的信用を害する危険のある行為であることから、行使の客体となる文書といえます。