刑法(偽造公文書等行使罪)

偽造公文書等行使罪(6)~他罪との関係①「本罪と①公文書偽造罪、②公正証書原本不実記載罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等(刑法158条)を適宜「本罪」といって説明します。

 この記事では、本罪と

  1. 公文書偽造罪刑法155条
  2. 公正証書原本不実記載罪刑法157条1項

との関係を説明します。

① 公文書偽造罪との関係

 公文書を偽造した上でこれを行使したときは、公文書偽造罪と本罪とは、手段の結果の関係になるので、牽連犯になります。

② 公正証書原本不実記載罪との関係

1⃣ 公務員に対し、虚偽の申立てをして公正証書の原本に不実の記載をさせ、これを公務所等の一定の場所に備え付けさせた場合には、公正証書原本不実記載罪と本罪(不実記載公正証書原本行使罪)とはそれぞれ手段結果の関係にあるものとして牽連犯になります。

 参考となる以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和59年2月9日)

 1回の虚偽申請行為に基づき、複数の土地建物(2筆の宅地、1個の建物(附属建物5 個))につき、複数の事項(抵当権設定、停止条件付賃借権仮登記)に関し土地及び建物登記簿に各不実の記載をさせ、備付け行使したという事案です。

 土地登記簿及び建物登記簿はそれぞれが全体として1個の文書で1個の「公正証書の原本」に当たると解されるので、土地登記簿及び建物登記簿のそれぞれについて、公正証書原本不実記載罪と不実記載公正証書原本行使罪の各一罪が成立するとした上で、各公正証書原本不実記載罪は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり、各公正証書原本不実記載罪と各不実記載公正証書原本行使罪との間には手段結果の関係があるとして、刑法54条1項前段観念的競合)、後段(牽連犯)により以上を科刑上一罪として処断する旨判断した事例です。

 裁判所は、

  • 被告人Aの原判示第三の所為は、ニ筆の宅地及び1個の建物(附属建物5個)について各抵当権設定及び停止条件付賃借権仮登記の虚偽の登記申請を一括して行い、登記官をして各不実の記載をなさしめ、かつ、これを登記所に備え付けさせて行使したものであるが、土地登記簿及び建物登記簿はそれぞれが全体として一個の文書で一個の「公正証書の原本」に当たると解されるので(不動産登記法14条、15条参照)、 複数の土地建物について複数の事項に関し登記簿に不実の記載がなされ、これが備付けられて行使された場合でも、それが1回の虚偽申請行為に基づいて行われたときには、土地登記簿及び建物登記簿のそれぞれについて刑法157条1項158条1項の各一罪が成立すると解するのが相当である
  • 被告人Aの前記所為中、公正証書原本不実記載の点は、土地登記簿及び建物登記簿ごとに同法157条1項罰金等臨時措置法3条1項1号に、不実記載公正証書原本行使の点は土地登記簿及び建物登記簿毎に刑法158条1項、157条1項、罰金等臨時措置法3条1項1号にそれぞれ該当するところ、右の土地登記簿及び建物登記簿に対する各不実記載は一個の行為でニ個の罪名に触れる場合であり、右各不実記載と前記各同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法54条1項前段、後段10条により結局以上を科刑上一罪として最も重い土地登記簿についての不実記載公正証書原本行使罪の刑で処断することとする

と判示しました。

2⃣ 複数の不動産登記簿に複数の不実記載がされるなどした事案において、公正証書原本不実記載罪と本罪(不実記載公正証書原本行使罪)は、各物件の各登記ごとに成立するとした裁判例があります。

東京高裁判決(平成14年2月5日)

 裁判所は、

  • 公正証書原本不実記載及び同行使罪は、各物件の各登記ごとに成立するもの、すなわち、本件においては、登記の数(根抵当権設定仮登記と賃借権設定仮登記の2個)に物件の数(合計14個)を乗じた個数(すなわち28個)成立しているものと解される

と判示しました。

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