刑法(偽造公文書等行使罪)

偽造公文書等行使罪(7)~他罪との関係②「本罪と①偽造私文書行使罪、②私文書偽造罪・偽造私文書行使罪、③私印偽造罪・偽造私印使用罪」を説明

 前回の記事の続きです。

 偽造・変造・虚偽公文書行使罪、不実記載公正証書原本行使罪、不実記録電磁的公正証書原本共用罪等(刑法158条)を適宜「本罪」といって説明します。

 この記事では、本罪と、

  1. 偽造私文書行使罪(刑法161条1項
  2. 私文書偽造罪(刑法159条)・偽造私文書行使罪(刑法161条1項
  3. 私印偽造罪(刑法167条1項)、偽造私印使用罪(刑法167条2項後段

との関係を説明します。

① 偽造私文書行使罪との関係

 複数の偽造文書を一括して行使した場合には、複数の偽造文書行使罪は、観念的競合となります(詳しくは前の記事参照)。

 偽造公文書と偽造私文書を一括行使した場合も、偽造公文書行使罪と偽造私文書行使罪は観念的競合となります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(明治45年6月25日)

 偽造に係る印鑑証明書と金円借用証書を同時に行使した場合には、偽造公文書行使罪と偽造私文書行使罪は観念的競合刑法54条1項前段)となるとした判決です。

 裁判所は、

  • 偽造に係る印鑑証明書及び金円借用証書を同時に行使したるときは、すなわち1個の所為にして数個の罪名に触れるものなれば、刑法第54条第1項前段を適用すべきものとす

と判示しました。

② 私文書偽造罪・偽造私文書行使罪との関係

1⃣ 公正証書作成の代理委任状を偽造・行使し(私文書偽造罪・偽造私文書行使罪)、公証人をして公正証書の原本に不実の記載をさせ、これを行使したときは(公正証書原本不実記載罪・不実記載公正証書原本行使罪)、代理委任状の偽造・行使は(私文書偽造罪・偽造私文書行使罪)、公正証書原本不実記載罪・不実記載公正証書原本行使罪の手段であるから、「私文書偽造罪・偽造私文書行使罪」と「公正証書原本不実記載罪・不実記載公正証書原本行使罪」は牽連犯の関係に立つとした判例があります。

大審院判決(明治42年2月5日)

 裁判所は、

  • 公正証書作成の代理委任状を偽造し、公証人をして公正証書を作成せしめ、これを行使したる場合には、委任状の偽造行為は、公正証書偽造行使の所為の手段にほかならざれば、刑法第54条(※牽連犯の規定)を適用処断すべきものとす
  • 従って、右2個の所為を個々独立するものとし、同法第47条(※併合罪の規定)を適用したる判決は不正なり

と判示しました。

2⃣ 他人の名義を冒用して自動車運転免許証下付願及び履歴書を偽造行使し(私文書偽造罪・偽造私文書行使罪)、運転手試験を受けて合格し、当該吏員をして名義人を運転手とする不実の内容を自動車運転手免許証に記載させ、その下付を受けてこれを行使した(免状不実記載罪・不実記載免状行使罪)という事案において、「私文書偽造罪・偽造私文書行使罪」と「免状不実記載罪・不実記載免状使罪」は、互いに手段結果の関係にあり、牽連犯になるとした判例があります。

大審院判決(昭和5年3月27日)

 裁判所は、

  • 他人の名義を冒用して自動車運転手免許証下付願及び履歴書を偽造行使し、運転手試験を受け、これに合格し、当該吏員をして名義人を運転手とする不実の記載を自動車運転手免許証に為さしめ、その下付を受け、これを行使したる場合においては、免許証下付願及び履歴書の偽造行使罪と、免状に不実の記載を為さしめこれを行使したる罪との間には、互いに手段結果の関係あるものとす

と判示しました。

③ 私印偽造罪・偽造私印使用罪との関係

 公正証書に嘱託書の氏名を偽署し(私印偽造罪:刑法167条1項)、公証人をして公正証書の原本に不実の記載をさせた(公正証書原本不実記載罪:刑法157条1項)事案において、不実記載公正証書原本行使罪は公証人が同証書を公証役場に備え付けることによって成立し、他方、偽造私印使用罪(刑法167条2項後段)は他人の氏名を偽署して公証人に提示すると同時に成立するものであるから、「不実記載公正証書原本行使罪」と「偽造私印使用罪」は1個の行為によって行われたものということができず、両者は観念的競合ではなく牽連犯であるとした判例があります。

 「私印偽造罪」と「偽造私印使用罪」は手段と結果の関係になるので、牽連犯の関係となり一罪となります。

 「公正証書原本不実記載罪」と「不実記載公正証書原本行使罪」も手段と結果の関係となるので、牽連犯の関係になり一罪となります。

 そして、「私印偽造罪・偽造私印使用罪」と「公正証書原本不実記載罪・不実記載公正証書原本行使罪」も手段と結果の関係になるので、牽連犯の関係となり一罪となります。

大審院判決(明治42年11月11日)

 裁判所は、

  • 公正証書に嘱託者の氏名を偽書する所為と公証人をして公正証書に不実の記載を為さしむる所為とは、各別個の行為なれども、前者は後者の当然の結果なるが故に、純然たる二罪とし併合罪をもって論ずべきものにあらず
  • 公証人をして公正証書に不実の記載を為さしめ、これを行使したる罪は、公証人がその証書を公証役場に備え付けたるによりて成立し、偽造署名行使の罪は、他人の氏名を偽書して公証人に呈示すると同時に成立す
  • 従って、右2個の行為は1個の行為によりて行われたるものというを得ず

と判示しました。

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