前回の記事の続きです。
この記事では、有印私文書偽造罪(刑法159条)を適宜「本罪」といって説明します。
本罪の行為
本罪の行為は、行使の目的を持って、
① 他人の印章、署名を使用して、権利、義務又は事実証明に関する文書、図画を偽造すること
又は
② 偽造した他人の印章、署名を使用して、権利、義務又は事実証明に関する文書、図画を偽造すること
です。
この記事では、「偽造」の意味を説明します。
私文書偽造の「偽造」とは?
私文書偽造の「偽造」の概念について、最高裁は、
「私文書偽造とは、その作成名義を偽ること、すなわち私文書の名義人でない者が権限がないのに、名義人の氏名を冒用して文書を作成することをいうのであって、その本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある」
とした原判決の説示を正当として是認した上(最高裁判決 昭和59年2月17日)、
「私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある」
と自ら判示し(最高裁決定 平成5年10月5日、最高裁決定 平成11年12月20日)、私文書偽造の「偽造」の概念を明らかにしています。
なお、文書偽造の概念一般については、以下の記事で説明しています。
文書偽造・変造の罪(9)~偽造の概念①「偽造内容の真否と文書偽造罪の成否」を説明
文書偽造・変造の罪(10)~偽造の概念②「偽造の方法」を説明
文書偽造・変造の罪(11)~偽造の概念③「偽造の程度(偽造文書は、一見して真正文書と誤信されるようなものでなければならない)」を説明
文書偽造・変造の罪(12)~偽造の概念④「偽造罪の既遂時期」を説明
文書偽造・変造の罪(13)~偽造の概念⑤「『文書の名義人』と『文書の作成者』は区別される」を説明