刑法(偽造私文書等行使罪)

偽造私文書等行使罪(2)~「主体(犯人)」「客体」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法161条の罪(偽造有印私文書行使罪、変造有印私文書行使罪、偽造無印私文書行使罪、変造無印私文書行使罪、虚偽診断書行使罪、虚偽検案書行使罪、虚偽死亡証書行使罪)を「本罪」といって説明します。

主体(犯人)

 本罪の主体(犯人)について、特段の制限はありません。

 公務所に提出すべき虚偽の診断書、検案書、死亡証書についても、これを作成した医師自らが公務所に提出行使する場合に限られるものではありません。

 以下の裁判例で、公務所に提出すべき医師の診断書が虚偽の記載内容を有している限り、そのことを認識して当該公務所にこれを提出行使した以上、その行使者が、人を介してこれを提出しようと、あるいは診断書の法定の提出義務者であるか否かを問わず、本罪が成立するとされています。

東京高裁判決(昭和27年11月27日)

 虚偽診断書行使罪の事案です。

 裁判所は、

  • 公務所に提出すべき医師の診断書が虚偽の記載内容を有している限り、そのことを認識して当該公務所にこれを提出行使した以上、その行使者が、人を介してこれを行いたると、はたまた、該診断書の法定の提出義務者であると否とを問わず刑法第161条第1項所定の虚偽私文書行使の罪の成立するを妨げない

としました。

客体

1⃣ 本罪の客体は、

私文書偽造罪等(刑法159条)、虚偽診断書等作成罪(刑法160条)に記載された文書及び図画(とが)

です。

 具体的には、

  • 偽造・変造された権利、義務又は事実証明に関する私文書・私図画(刑法159条)
  • 医師が虚偽の記載をした公務所に提出すべき診断書、検案書、死亡証書(刑法160条)

が該当します。

2⃣ 行使の客体となる文書は、行使の目的をもって作成されたものに限定されず、偽造・変造された文書・図画、あるいは虚偽記載がされた診断書、検案書、死亡証書であれば足ります。

3⃣ 行使の客体となる文書は、必ずしも行使の犯人自らが偽造・変造された文書・図画、あるいは虚偽記載がされた診断書、検案書、死亡証書であることを要せず、他人が偽造・変造・虚偽作成をした文書等について、これを真正なものとして使用すれば本罪が成立します。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(明治41年12月21日)

 裁判所は、

  • 刑法第159条第1項は、他人の署名又は偽造したる他人の印章を使用して文書を偽造して未だ行使せざる場合を処罰し、また、同法第161条第1項は、他人の偽造したる文書を犯人が行使したる場合を処罰するのみならず、犯人が自ら偽装したる場合をも処罰するものなることは、その条文に徴して判然たり

と判示しました。

4⃣ 行使の客体となる文書は、偽造・変造・虚偽作成が犯罪行為によるものである場合に必ずしも限定されません。

 例えば、他人が偽造・変造をした文書について、たとえ当該他人が偽造の際に行使の目的(故意とは別途に必要とされる主観的要件である)を有しておらず、その意味でその者につき偽造罪が成立しない場合であったとしても、その文書が客観的に見て偽造文書である以上は、行使の客体となり得えます。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(明治45年4月9日)

 裁判所は、

  • 刑法第161条第1項は、偽造・変造の文書を行使したる者を罰するの旨趣にして、その偽造・変造の行為が犯罪行為たると否とはこれを問う要なし

と判示しました。

 2⃣4⃣のいずれの場合も、文書自体に着目してみれば、文書の真正に対する公共的信用を害する危険のある行為であることから、行使の客体となる文書といえます。

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