これから15回にわたり、偽証罪(刑法169条)を説明します。
偽証罪とは?
偽証罪は、刑法169条において、
法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3か月以上10年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
例えば、裁判で法廷に呼ばれた証人が、法廷で虚偽の証言をすれば偽証罪が成立します。
偽証罪は、国家の審判権の行使の適正を保護法益とする犯罪のうち、宣誓した証人による虚偽の陳述を処罰しようとするものです。
主体(法律により宣誓した証人)
偽証罪の主体(犯人)は、
「法律により宣誓した証人」
です。
判例(大審院判決 昭和9年11月20日)も、
「偽証罪は、法律により宣誓したる者に非ざれば犯すことを得ざる犯罪なるを刑法65条1項にいわゆる身分により構成すべき犯罪行為に該当するものというべく」
と判示しています。
「法律により」とは?
「法律により宣誓した証人」の「法律により」とは、
- 法律の定める手続によって
という意味であり、
- 宣誓について法律に根拠があること
をいいます。
法律が直接規定している場合のほか、法律の委任に基づいて、政令・省令等の下位法に根拠を有する場合も含まれます。
例えば、法律によって宣誓が規定されている法として以下のものがあります。
- 民事訴訟法201条
- 刑事訴訟法154条
- 非訟事件手続法10条(民事訴訟に関する法令の規定を準用)
- 海難審判法36条
- 家事事件手続法64条1項(民訴201条の規定を準用)
- 裁判官弾劾29条(刑事訴訟に関する法令の規定を準用)
また、法律によって宣誓が規定されていなくても、例えば、
- 国家公務員の懲戒手続についての公平委員会による口頭審理又は審尋審理における証人の宣誓
のように、直接には人事院規則13-1第52条、64条によるものですがが、国家公務員法(16条・91条)の委任に基づくものとして、法律による宣誓と解することができるとされるものもあります。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
刑法169条の「法律により宣誓したる証人」の意味について、裁判所は、
と判示しました。
「宣誓」とは?
「法律により宣誓した証人」の「宣誓」とは、
良心に従って真実を述べ、また何事をも付け加えないことを誓うこと
をいいます(民訴法201条1項、民訴規則112条4項、刑訴法154条、刑訴規則118条2項)。
宣誓は、証人に良心に従って陳述することを当該事件を担当している裁判所に対して誓わせることにより精神を緊張させ、その陳述の誠実性を確保する手段であるとされています。
宣誓は、特定の事件についてなされるものでなければならない
宣誓は、特定の事件について、その陳述の誠実性を確保するためになされるものでなければなりません。
例えば、国家公務員が服務の宣誓(国家公務員法97条)をしても、それは特定の事件に関するものではないので、偽証罪の構成要件である「宣誓」には該当しません。
宣誓しない者に対しては偽証罪は成立しない
証人であっても、宣誓しない者に対しては、偽証罪の主体となることはなく、偽証罪は成立しません。
その宣誓をしない理由が法律の規定(例えば、民訴法201条2項ないし4項、刑訴法155条1項)による場合であると、審判機関の過誤によってこれを行わせなかった場合であると、証人の責めに帰すべき場合であるとを問わず、偽証罪の主体となることはありません。
宣誓の有効性
宣誓は法律により有効に行われることを要しますが、軽微な手続上の瑕疵があったとしても、宣誓そのものを無効にするほどの重大なものでないかぎり、その宣誓は有効とされます。
例えば、
- 偽証の罪の告知を欠いただけの宣誓は有効とされる
- 裁判所のように、一般的に、証人に宣誓をさせる権限を有する機関に命ぜられて行った宣誓である以上、たとえ、その事件に管轄違とか起訴手続の違背等があったとしても、宣誓自体が無効となることはない
とされます。
これに対して、司法警察職員のように、宣誓をさせる一般的権限を有しない者の求めによって行った宣誓は無効であるとされます。
参考となる以下の裁判例があります。
旧家事審判法(現行法:家事事件手続法)による遺言確認審判事件で、同法及び旧非訟事件手続法により準用される旧民訴法の規定により、証人として審問を受けた者について、家庭裁判所の審判廷で、家事審判官及び裁判所書記官立会の面前で、旧民訴法288条2項(現行法:民訴規則112条4項)に規定する文言の記載してある宣誓書を手渡され、これを黙読して、その文言を十分了解したうえでこれに署名押印したものである場合について、宜誓は起立して厳粛に行うこと(旧民訴286条、民訴規則112条2項)、宣誓の趣旨の論示と偽証の罰の警告(旧民訴287条、民訴規則112条5項)、宣誓書の朗読(旧民訴288条1項、民訴規則尾112条3項)などの法定の宣誓の方式を履践しなかったとしても、法律により宜誓した証人に該当するものというべきである旨判示した事例です。
裁判所は、
- 証人が裁判官、裁判所書記官その他訴訟関係人の在廷する法廷又は審判廷において、宣誓の趣旨を諒知して宣誓書に署名押印した以上、必ずしも民事訴訟法第286条、第287条、第288条第1項の宣誓書の朗読等所定の手続を履践していなくても、刑法第169条所定の「法律により宣誓した証人」として偽証罪の対象となる
と判示しました。