刑法(偽証の罪)

偽証罪(10)~「偽証罪の既遂時期」を説明

 前回の記事の続きです。

偽証罪の既遂時期

1⃣ 偽証罪(刑法169条)の既遂時期は、

証人に対する一連の尋問手続がすべて終了したとき

と解すべきとされます(既遂」の説明は前の記事参照)。

 この点につき、明確な判示をした判例は見当たりませんが、1個の証人尋問手続の間に数個の虚偽の陳述がなされた場合、単純な一罪とみるべきであるとする判例があります。

大審院判決(昭和16年3月8日)

 裁判官は、

  • 民事訴訟事件の証人として1回の宣誓の下に数個の虚偽の陳述を為すも、単一なる偽証罪を構成し、数個の同罪を構成するものに非ず

と判示しました。

 この判例の趣旨からすると、判例は、証人に対する一連の尋問手続がすべて終了したときに既遂に達するという見解を採っているものと考えられています。

 このことから、1個の尋問手続に対する陳述であるならば、その陳述が期日を異にした数日に及んでも、手続終了までは偽証罪は既遂に達しません。

2⃣ 証人に対する一連の尋問手続がすべて終了したとき既遂に達するので、いったん虚偽の陳述をしても、全体の尋問が終了するまでに前言を訂正すれば偽証罪は成立しないとされます。

 証人の陳述は、一連のものとして行われ、その信用性も全体として判断されるべきものなので、いったん虚偽の陳述がなされた場合においても、当該尋問手続中に訂正がなされれば、偽証罪は成立しないという考え方になります。

 逆にいえば、証人尋問手続がいったん終了した以上、偽証罪は既遂に達し、その後、再度、証人として再尋問された場合に前の偽証を訂正したとしても、自白による裁量的減免(刑法170条)を受け得ることは別として、偽証罪の成立に影響を及ぼしません。

3⃣ また、証人の陳述後の宜誓を命じる場合(民訴規則112条1項ただし書)は、虚偽の陳述をした後宣誓を終了したときに偽証罪は既遂に達します。

次の記事へ

偽証の罪の記事一覧