刑法(偽証の罪)

偽証罪(13)~「偽証罪・偽証教唆罪の罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

偽証罪の罪数の考え方

 偽証罪(刑法169条)は、1回の尋問手続による陳述を全体としてみてその内容が虚偽であるときに成立するものであり、その一連の手続が終了したときに既遂に達すると解されています(詳しくは偽証罪(10)の記事参照)。

 そのため、偽証罪の罪数についても、個々の陳述ごとに罪が成立するものではなく、1回の尋問手続における一連の陳述が全体として一罪を構成します。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正4年12月6日)

 証人として予審判事の尋問を受けた際、2個の事実を隠蔽し、虚偽の陳述をした事案です。

 裁判所は、

  • 同一事件につき、同一予審廷において、同一被告を曲庇するため偽証を為したるものにして1個の偽証罪を構成する

と判示しました。

大審院判決(昭和16年3月8日)

 1個の民事訴訟事件の一つの審級において一つの宣誓の下に数個の虚偽の陳述をした事案です。

 裁判所は、

  • 本来的単一の偽証罪を構成するものにして、その各陳述ごとに偽証罪を構成するに非ず

と判示しました。

 なお、宣誓の個数それ自体によって、偽証罪のある罪数が定まるわけではないところ、通常の訴訟手続等においては、1回の宣誓がなされたにすぎない場合は通常、1個の尋問手続であったことを示すものであり、その過程における偽証は、特段の事情がない限り、数期日にわたって行われたものであっても一罪と解すべきであり、この大審院判決の考え方はこのような前提の下での判決であると考えられています。

最高裁判決(平成4年9月18日)

 議院証人法6条1項の偽証罪の事案です。

 裁判所は、

  • 1個の宣誓に基づき同一の証人尋問の手続においてなされた数個の陳述は一罪を構成する

と判示しました。

偽証教唆罪の罪数の考え方

 偽証教唆罪の罪数の考え方を説明します(偽証教唆罪の説明は偽証罪(12)の記事参照)。

1⃣ 同一被告事件について、数人に対し、偽証の教唆をしてそれぞれ偽証をさせた場合は、教唆をした人数分の偽証教唆罪が独立して成立し、各儀容教唆罪は併合罪の関係になります。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正5年9月19日)

 裁判所は、

  • 同一被告事件につき、数人に対して偽証の教唆を為し偽証せしむるにおいては、その教唆が数個の行為をもって為されたると1個の行為をもって為されたるとを問わず、常に併合罪を構成するものにして、連続一罪または包括的一罪の行為をもって論ずべきものに非ず

と判示しました。

2⃣ 1個の行為で数人に教唆した場合は、教唆をした人数分の偽証教唆罪が成立し、各偽証教唆罪は観念的競合の関係にあると解されます。

 この点、最高裁(最高裁決定 昭和57年2月17日)は、

  • 幇助罪が数個成立する場合において、それらが刑法54条1項にいう1個の行為によるものであるか否かは、幇助行為それ自体についてみるべきである

と判示しており、これは、

  • 成立する犯罪の個数について、共犯(教唆又は幇助)について成立する犯罪は正犯のそれに従うとした上、処断上の罪数関係については、共犯行為(教唆行為又は幇助行為)自体の数を基準として決定すべきであるとの趣旨を判示しているもの

と解されています。

 つまり、偽証の教唆行為が1個であれば、1個の偽証教唆罪が成立するのであり、1個の偽証教唆行為で複数人を教唆した場合にも、1個の偽証教唆罪が成立するという考え方になります。

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