刑法(偽証の罪)

偽証罪(3)~「法律上宣誓を拒むことができる場合において、これを拒まないで行った宣誓は有効であり、偽証罪が成立する」を説明

 前回の記事の続きです。

法律上宣誓を拒むことができる場合において、これを拒まないで行った宣誓は有効であり、偽証罪が成立する

1⃣  偽証罪(刑法169条)の主体(犯人)は、

「法律により宣誓した証人」

です。

 偽証罪が成立するためには、証人が宣誓をした上で裁判で虚偽の証言をすることが必要です。

 そして、証人が法律上宣誓を拒むことができる場合において、これを拒まないで行った宣誓は有効であり、偽証罪(刑法169条)が成立します。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正12年4月9日)

 民事訴訟の当事者と親族関係があることから旧民訴291条(現行の民訴法201条4項)により宣誓拒絶権があったにもかかわらず、これを行使しないで宣誓した事案です。

 裁判所は、

  • 親族関係上、証言を拒むことを得べき者といえども、既に民事訴訟法に従い証人として宣誓したる上、偽証の陳述を為したるときは、その行為は偽証罪を構成するものとす

と判示しました。

2⃣ 同様に、宣誓させるかどうかが裁判所の裁量に委ねられている場合(現行の民訴201条3項)に、裁判所が裁量によりさせた宣誓も有効であり、これに従って宣誓した証人は偽証罪の主体となり得ます。

3⃣ また、証言拒絶権を有する者(民訴法196条197条刑訴法146条以下)が宣誓の上、証言拒否権を行使しないで偽証した場合も、宣誓は有効であり、偽証罪の主体となり得ます。

 この点に関する以下の判例・裁判例があります。

最高裁決定(昭和28年10月19日)

 証人が、刑訴第146条の証言拒絶権を有したとしても、宣誓の上虚偽の陳述をしたときは、偽証罪が成立するとした判決です。

 裁判官は

  • 何人も自己が刑事訴追を受け又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことのできることは刑訴146条の規定するところであるが、証人がこの証言拒絶権を放棄し他の刑事事件につき証言するときは必ず宣誓させた上で、これを尋問しなければならないのである
  • それゆえ、かかる証人が虚偽の陳述をすれば刑法169条の偽証罪が成立するのである

と判示しました。

最高裁決定(昭和32年4月30日)

 裁判所は、

  • 証人が刑訴146条の証言拒否権を持っていたとしても宣誓の上虚偽の陳述をすれば偽証罪が成立する

と判示しました。

東京高裁判決(昭和27年9月22日)

 他人の刑事被告事件に関して、法律により宣誓した上虚偽の陳述をした以上、たとえその証言事項が自己の犯罪事実に関係があるとしても、偽証罪の成立を妨げないとした判決です。

 裁判所は、

  • 偽証罪の規定は宣誓によって担保された供述の正確性を保持し、よって国権の作用、ことに司法裁判権の行使をあやまらざらしめんことを目的として設けられたのに対し、証拠隠滅罪の規定は具体的個別的な各個の事件について、正確な国家刑罰権の行使に関する認定を誤らざらしめんことを目的として定められたものであるから、互にその構成要件を異にする別個の犯罪であり、従って、刑法第146条にいわゆる証拠の隠滅又は証拠の偽造変造の罪の中には同法第169条の偽証罪を包含するものではないと解すべきである
  • それ故、他人の刑事被告事件に関し、いやしくも法律により宣誓した上、虚偽の陳述を為した以上、たとえその 証言事項が自已の犯罪事実に関係があるとしても偽証罪の成立を妨げないものというべきである
  • そして、証人において自己の証言によって自己が有罪判決を受けるおそれがあれば証言を拒絶することができることは前説明のとおりであるから、かかる場合、敢えて身の危険をも省みず、宣誓の上尋問に答えて虚偽の陳述をした以上、証人が偽証罪によって処罰される危険において自ら防衛手段に出ないことは何人からも期待できないということを理由として偽証罪の成立を否定することはできない

と判示しました。

次の記事へ

偽証の罪の記事一覧