これから3回にわたり、虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪(刑法171条)を説明します。
虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪を適宜「本罪」といって説明します。
虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪とは?
虚偽鑑定罪、虚偽通訳罪、虚偽翻訳罪は、刑法171条において、
法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をしたときは、前二条(注:第169条、第170条のこと)の例による
と規定されます。
本罪は、偽証の罪(刑法20章)の一つで、法律により宣誓した鑑定人、通訳人、翻訳人による
- 虚偽の鑑定
- 虚偽の通訳
- 虚偽の翻訳
を処罰するものです。
「前ニ条の例による」とは、本罪の処罰については偽証罪(刑法169条)、偽証罪における自白による刑の減免(刑法170条)と同じ扱いを受けることを意味します。
したがって、本罪の法定刑は、偽証罪と同じ、3月以上10年以下の拘禁刑となります。
虚偽の鑑定、通訳、翻訳をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白した場合には、裁判所の裁量により、刑の減軽又は免除を受け得る場合があります。
刑の減軽又は免除の考え方は、偽証罪の場合と同じであり、詳しくは偽証罪(15)の記事参照。
保護法益
本罪の保護法益は、「国家の審判作用の適正」です。
主体(鑑定人、通訳人、翻訳人)
本罪の主体(犯人)は、
- 法律により宣誓した「鑑定人」
- 法律により宣誓した「通訳人」
- 法律により宣誓した「翻訳人」
です。
「法律により宣誓した」とは、法律(受任命令を含む)所定の手続によってとの趣旨です。
宣誓の意義については偽証罪の場合と同じであり、詳しくは偽証罪(1)の記事参照。
具体的には、法廷に証人として出廷したときに虚偽の証言はしない旨の宣誓をしたことをいいます。
受任命令とは、法律または上級の命令に基づき、その委任された事項について定める命令のことです。
委任命令とも呼ばれます。
具体的には、法律に細かいルールを定める必要がある場合、国会がそのルールを定める権限を政府や行政機関に委任し、その委任に基づいて定められる命令のことです。
法律による宣誓の根拠規定としては、民訴法216条、201条、154条、刑訴法166条、178条、179条があります。
①「鑑定人」とは?
「鑑定人」とは、
特別の知識経験によって知り得た法則及びその法則を適用して得た意見判断を審判機関に報告する者
をいいます。
証人が過去の経験事実を報告する者であるのに対して、鑑定人は、既得の学識経験を基礎として現在の事実につき意見を述べる点において区別されます。
「鑑定証人」は虚偽鑑定罪ではなく、偽証罪の主体となる
学識経験に基づいて知り得た過去の経験事実を報告する「鑑定証人」は、自己の五官の作用によって知り得た過去の事実について陳述するものであって、偽証罪(刑法169条)の主体である証人と同様に非代替性を有します。
「鑑定証人」に対し、民訴法217条、刑訴法174条がいずれも、鑑定人尋問の規定ではなく証人尋問の規定を適用する旨注意的に規定していることからみても、「鑑定証人」は偽証罪の主体である「証人」であって、虚偽鑑定罪の主体である「鑑定人」ではありません。
②「通訳人」とは?
「通訳人」とは、通訳(刑訴法175条、176条)をする者です。
③「翻訳人」とは?
「翻訳人」とは翻訳(刑訴177条)をする者です。
本罪の主体となる鑑定人、通訳人、翻訳人は、主体法律により宣誓した者であること要する
本罪の主体となる鑑定人、通訳人、翻訳人は、主体法律により宣誓した者(法廷に証人として出廷したときに虚偽の証言はしない旨の宣誓をした者)であること要します。
よって、捜査機関によって鑑定、通訳、翻訳を依頼された者(刑訴法223条)や民事訴訟において裁判所から鑑定書の説明を求められた者(民訴法218条2項)等は、「法律により宣誓」をしないので、本罪の主体とはなり得えません。