刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(14)~「日本から外国にあるサーバに対してわいせつデータを蔵置した場合の本罪の成否」を説明

 前回の記事の続きです。

日本から外国にあるサーバに対してわいせつデータを蔵置した場合の本罪の成否

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の成否に関し、

  • わいせつ情報を蔵置したサーバが日本国内にある場合

    と、

  • 外国にあるサーバに日本国内からアクセスしてわいせつ情報を蔵置する場合

とで犯罪の成否の判断が異なるかという問題があります。

 具体的には、刑法175条は国外犯を処罰しないので、日本から外国のプロバイダーのサーバに対してわいせつデータを蔵置して、日本からアクセス可能にする行為がわいせつ物頒布等の罪として処罰可能かが問題となります。

 これには、

1⃣ 日本国内からわいせつな画像データをアップロードする場合

  と、

2⃣ 外国でわいせつな画像データをアップロードする場合

とがあります。

学説の見解

 公然陳列状態は、わいせつな内容を認識することが可能な範囲全体に及ぶと解するので、日本国内からアクセス可能である限り、1⃣、2⃣の双方について、国内犯としてわいせつ物頒布等の罪が成立することになると考える学説があります。

 学説によっては、上記2⃣の場合について、例えばイギリス人がイギリス国内で、イギリスの国内に設置されているサーパーコンピュータにわいせつ画像情報を送信して記憶・蔵置させ、日本国内でアクセスした場合は、陳列行為が日本国内で行われていないことを理由に不可罰であるとするものがあります。

裁判例

 1⃣の事案を有罪とした以下の裁判例があります。

大阪地裁判決(平成11年3月19日)

 この判決は、

  1. 画像処理ソフトによるマスク処理が施されたわいせつ画像データを記憶蔵置させたサーバーコンピューターのディスクアレイは「わいせつ図画」に該当する
  2. 上記わいせつ画像データをサーバーコンピューターに送信し記憶蔵置させた行為が「公然と陳列した」に該当する
  3. 日本国内から日本国外の海外プロバイダーのサーバーコンピューターにわいせつ画像データを送信し記憶蔵置させる行為にも刑法を適用することができる

としたものです。

 ③につき、裁判官は、

  • 一般に、我か国の刑法の場所的適用範囲については、犯罪構成要件の実行行為の一部が日本国内で行われ、あるいは犯罪構成要件の一部である結果が日本国内で発生した場合には、我が国の刑法典を適用しうると解すべきところ、インターネット通信においては、誰でもダウンロードすることを可能とするデータを伴うホームページの開設者が自己のパソコンからそのダウンロード用のデータをプロバイダーにあてて送信すれば、たとえそれが海外のプロバイダーに対して向けられたものであっても、瞬時にそのプロバイダーのサーバーコンピューターに記憶、蔵置され、その時点からは、日本国内からでも、右データに容易にアクセスしてダウンロードすることが可能となるものであり、本件では、被告人が、日本国内からアメリカ合衆国国内に事務所をおくプロバイダーであるユーエス・インターネットの管理するサーバーコンピューターに会員用画像データを送信して記憶、蔵置させているが、右会員用画像データに対しては、会員となってIDとパスワードを取得しさえすれば、日本国内からでも容易にアクセスし得、右会員用画像を閲覧することができるようになっていた上、ユーエス・インターネットに開設された会員用画像データを含む会員用ホームページは、日本国内のプロバイダーに開設された本件ホームページの会員用ページとして開設されたもので、その内容は日本語で構成され、本件ホームページから直接移動できるようにリンクされており、その会員も本件ホームページで募集していたものであるから、右会員用画像データは、当初から、専ら日本国内の者が 閲覧することが予定され、しかも、それが容易に可能となる措置も講じられていたものということができ、実際にも右会員用画像データにアクセスしてこれを閲覧した者の殆どは日本国内の者であったことは、被告人自身も認めているところである
  • 以上に鑑みると、本件において、被告人が、海外プロバイダーであるユーエス・インターネットのサーバーコンピューターに会員用のわいせつ画像データを送信し、同コンピューターのディスクアレイに記憶、蔵置させた行為は、たとえ同コンピューターのディスクアレイの所在場所が日本国外であったとしても、それ自体として刑法一七五条が保護法益とする我が国の健全な性秩序ないし性風俗等を侵害する現実的、具体的危険性を有する行為であって、わいせつ図画公然陳列罪の実行行為の重要部分に他ならないといえる。したがって、被告人が右のような行為を日本国内において行ったものである以上、本件については刑法一七五条を適用することができる
  • 本件においては、被告人の送信した会員用のわいせつ画像データが記憶、蔵置されていたユーエス・イン ターネットのサーバーコンピューターの所在場所は、全証拠を検討してみても明らかではない
  • しかしながら、インターネット通信を利用した本件においては、被告人がユーエス・インターネットと契約してホームページを開設するとともに、わいせつ画像データをそのサーバーコンピューターに向けて送信していること、ユーエス・インターネットのサーバーコンピューターに記憶、蔵置された会員用画像データについては、会員となってIDとパスワードを取得した多数の者が、これに容易にアクセスできて、右会員用画像を閲覧することができたことからすると、ユーエス・インターネット管理に係る右会員用画像データが記憶、蔵置されているサーパーコンピューターのディスクアレイが現実に存在したこと自体は明らかであり、そうである以上、その所在場所がどこであるかは本件の如き公然陳列の犯行態様からすると、さして重要な事実とはいえず、証拠上これが必ずしも明確に特定されているとはいえない場合でも、わいせつ図画公然陳列罪を構成する犯罪事実の特定ないし証明として不十分であるということはできない
  • したがって、本件では、わいせつ図画公然陳列罪の成立が妨げられるものではない

と判示し、わいせつ図画陳列罪が成立するとしました。

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