刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(15)~有償頒布の罪①「『有償頒布目的でのわいせつ物の所持又はわいせつな電磁的記録の保管』の意義」を説明

 前回の記事の続きです。

刑法175条2項の「有償頒布目的でのわいせつ物の所持又はわいせつな電磁的記録の保管」の意義

 わいせつ物頒布等の罪は、刑法175条において、

第1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

第2項 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

と規定し、第2項で、有償頒布に関し、

  • わいせつ文書有償頒布目的所持罪
  • わいせつ図画有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪
  • わいせつ物有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪

を規定します。

「有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管」とは?

 第2項の条文中にある「有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管」とは、

有償で頒布する目的を持ってわいせつ物を所持し、又はわいせつな電磁的記録を保管すること

をいいます。

「有償で」とは?

 「有償で」とは、

対価ないし代償を得ること

を意味します。

「頒布」とは?

 「頒布」とは、物と電磁的記録の双方について用いられています。

 物の「頒布」には、従来(平成23年の改正前刑法)の「販売」の意味も含まれます。

 平成23年の刑法改正前の刑法175条には条文中に「販売」の用語が用いられていましたが、同改正により、「販売」は「頒布」の用語に変更されました。

 物の「頒布」は

不特定又は多数の者に対して有償又は無償で対象となる物を交付する行為

を意味します。

 電磁的記録の「頒布」は

不特定又は多数の者の記録媒体上に有償又は無償で電磁的記録を存在するに至らしめる行為

を意味します。

「所持」「保管」とは?

 処罰対象となる行為は、物については「所持」となり、電磁的記録については「保管」となります。

 「所持」の意義は、

わいせつ物を自己の実力支配下に置いておくこと

です。

 電磁的記録の「保管」は、有体物の「所持」に相当する行為であり、

電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくこと

を意味します。

 本罪(刑法175条2項の罪)の成立を認めるにあたり、誰のためにその行為を行うかは問いません。

 したがって、他人のためにわいせつな電磁的記録を保管しているような場合も「保管」に当たります。

 ただし、その場合に「有償で頒布する目的」が認められるか否かは、別途検討される事項となります。

「有償で頒布する目的で、…わいせつな電磁的記録を保管」とは?

 「有償で頒布する目的で、…わいせつな電磁的記録を保管」とは、具体的には、例えば、

わいせつな画像データを自己のコンピュータのハードディスクに保存し、その画像データを有償で不特定又は多数の者に電子メールで送信する目的を有している場合

が該当します。

 この場合には、ハードディスク内のわいせつな電磁的記録を「有償で頒布する目的」が認められることから、刑法175条2項の罪が成立し得ます。

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