刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(17)~有償頒布の罪③「わいせつ物等有償頒布目的所持罪の成立を認めるに当たり、『有償頒布目的を有するわいせつ物』と『所持にかかわるわいせつ物』は同一媒体であることを要しない」を説明

 前回の記事の続きです。

わいせつ物等有償頒布目的所持罪の成立を認めるに当たり、「有償頒布目的を有するわいせつ物」と「所持にかかわるわいせつ物」は同一媒体であることを要しない

 わいせつ物頒布等の罪は、刑法175条2項で、わいせつ物等の有償頒布に関し、

  • わいせつ文書有償頒布目的所持罪
  • わいせつ図画有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪
  • わいせつ物有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪

を規定します。

 わいせつ物等の有償頒布の罪に関し、わいせつな画像データを自己のコンピュータのハードディスクに保存している者が、当該データをCD-ROM等に複写して有償で頒布する目的を有している場合、どのような罪が成立するかという問題があります。

 結論は、「有償頒布目的を有するわいせつ物」と「所持にかかわるわいせつ物」は同一媒体でなくても、わいせつ物等有償頒布目的所持罪が成立します。

 この点に関し、以下の裁判例・判例があります。

富山地裁判決(平成2年4月13日)

 裁判所は、

  • (所持に係るわいせつ物と販売するわいせつ物とが同一物でなくても、)わいせつ物が社会一般に流布する危険性は高く、販売する目的物自体を所持する場合とその危険性において違いがないと考えられる
  • 所持に係るわいせつ物と販売するわいせつ物とが同一物でなくても、わいせつ物を複写して複写物を販売する目的で所持するに至れば「販売の目的」及び「所持」があると認められ、わいせつ文書販売目的所持罪(現行法:わいせつ文書有償頒布目的所持罪)に該当すると解すべきである

と判示しました。

最高裁決定(平成18年5月16日)

 裁判所は、

  • 被告人は、本件光磁気ディスク自体を販売する目的はなかったけれども、これをハードディスクの代替物として製造し、所持していたものであり、必要が生じた場合には、本件光磁気ディスクに保存された画像データを使用し、これをコンパクトディスクに記憶させて販売用のコンパクトディスクを作成し、これを販売する意思であったものである
  • その際、画像上の児童の目の部分にぼかしを入れ、ファイルのサイズを縮小する加工を施すものの、その余はそのまま販売用のコンパクトディスクに記憶させる意思であった
  • そうすると、本件光磁気ディスクの製造、所持は法(※平成16年法律106号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)7条2項にいう「前項に掲げる行為の目的」のうちの児童ポルノを販売する目的で行われたものであり、その所持は、刑法175条後段にいう「販売の目的」で行われたものということができる

と判示しました。

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