刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(18)~有償頒布の罪④「販売のための見本誌、出版元への返品目的で所持していたわいせつ写真等について、わいせつ図画有償頒布目的所持罪の『販売目的』が肯定された事例」を説明

 前回の記事の続きです。

販売のための見本誌、出版元への返品目的で所持していたわいせつ写真等について、わいせつ図画有償頒布目的所持罪の「販売目的」が肯定された事例

 わいせつ物頒布等の罪は、刑法175条2項で、わいせつ物等の有償頒布に関し、

  • わいせつ文書有償頒布目的所持罪
  • わいせつ図画有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪
  • わいせつ物有償頒布目的所持罪
  • わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪

を規定します。

 わいせつ物等の有償頒布の罪に関し、出版元に返却するためにわいせつ図画を所持していた場合や、小売店に売込みに行く際に見本の用に供していた場合について、販売目的所持に当たるかが争われ、わいせつ図画有償頒布目的所持罪の成立が認められた事例として、以下の裁判例があります。

東京地裁判決(昭和60年3月13日)

 見本誌につき、

  • 出版元から見本誌としてきたものであり、ビニール袋に入っていないが、内容や装丁は販売の写真誌と全く変りがないものであるが、それ自体を他に販売するものではないにしても他の写真誌販売の手段として用いられるものであるほか、(中略)仮に販売する写真誌の冊数が不足した場合には見本誌を含めて売る場合もあり得るのであり、状況のいかんによっては随時販売対象にもなり得る性質の物で(中略)即座に販売対象とするには不都合な面もないではないが、ビニール包装自体、本来販売目的の有無を左右することがらではなく、仮にビニール包装が必要であったとしても、(中略)ビ二ール封印機も存在していたのであり、(中略)以上のように当面は見本誌として販売促進に供されているものであっても、それが他の写真誌の販売促進のためであり、それ自体も絶対的に販売に供される余地がないと解されない本件(中略)については、販売目的は肯定される

とし、返却のための所持については、

  • 小売店に卸したわいせつ写真誌が売れ残ったなどの理由で返品されてきたとしても、被告人らが、継続してその後もこれらわいせつ写真誌の販売を行なう限り、返品されてきたことゆえに、その返品されたわいせつ写真誌について販売の目的を失う契機は何も存しない
  • ことに本件わいせつ写真誌は、(中略)内容の新旧は問題にならず、いつでも需要がありさえすればすぐにそれに向けることができる性質のもので、(中略)再度小売店に販売しないというのは、出版元に相応価格で(中略)引き取ってもらえること(中略)等の理由によるものとみられ、被告人らが返品されたものについては販売の目的を放棄したものというものではない(中略)
  • 返品分として出版元に返還されるものであるとして他の新刊ものと識別して保管するなどの方法もとられてはおらず(中略)返品されてきたものと同一タイトルのものを返品分とは別個に在庫分として残すことも考えられるのであり、(中略)以上のとおり、被告人等のわいせつ写真誌所持の意図及び写真誌の保管状況に照し、小売店から返還されたとするものが仮に(中略)含まれていても当該のものにつき本件犯罪の成立を否定することはできない

とし、わいせつ図画有償頒布目的所持罪の成立を認めました。

次の記事へ

わいせつ物頒布等の罪の記事一覧