刑法(わいせつ物頒布等罪)

わいせつ物頒布等の罪(19)~「本罪における共同正犯(共犯)・幇助犯」を説明

 前回の記事の続きです。

本罪における共同正犯(共犯)

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)における共同正犯(共犯)について、参考となる事例として以下のものがあります。

わいせつ文書の「翻訳者」と「翻訳書の出版販売者」との共犯関係について判示した裁判例

東京高裁判決(昭和27年12月10日)

 わいせつ文書の翻訳者と翻訳書の出版販売者との関係について、裁判所は、

  • 少なくとも翻訳者が出版販売者の依頼にもとづいて翻訳全部を独力をもって完成してこれを引き渡し、出版販売者がそのままこれを出版販売し、その翻訳書が「わいせつ文書」と認められる場合においては、翻訳者と出版販売者との間には、わいせつ文書販売罪成立についてのいわゆる共同加功の意思と行為の分担が当然存在し、共同正犯の関係にある

としました。

わいせつ文書の著作者とその文書の出版販売業者との共犯関係について判示した裁判例

東京高裁判決(昭和47年10月9日)

 裁判所は、

  • わいせつ文書の著作者と右文書の出版販売業者との間の刑法上の共犯関係について考えてみるに、著作者は著述を完成し、出版販売業者は右著述を出版販売するものであって、著述行為と出版販売行為との両者が協力して、それぞれ分担するところを完了しなければ、当該わいせつ文書の出版販売を実現することができないものであるし、著作者は特別の事情の存しない限り、自己のわいせつ文書がそのまま出版されることを知悉しているものというべきである
  • そして、この協力はいろいろあるべく、著作者の協力の程度いかんによっては、著作者が幇助犯の責任を負うにとどまる場合のあることも否定することはできないが、少なくとも著作者が出版販売業者の要請を容れて完成したわいせつ文書を引き渡し、出版販売業者がそのままこれを出版販売し、その文書が「わいせつ文書」と認められる場合には、著作者と出版販売業者との間には、わいせつ文書販売罪についてのいわゆる共同加功の意思と行為の分担が当然存在し、刑法第60条の共同正犯の成立があるものといわなければならない
  • そして、著作者と出版販売業者との間に右のような共同正犯の成立があるときは、著作者が販売業務に一切関係にしなかったり、販売利益を収受しなかったとしても、右共同正犯の成否にはなんら影響を及ぼさないものと解すべき

と判示しました。

本罪における幇助犯

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)における幇助犯について、参考となる事例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和44年7月17日)

 わいせつ映画フィルムの貸与を受けた者において、不特定の多数人に観覧せしめるであろうことを知りながらこれを貸与し、貸与を受けた者においてこれを映写して不特定の者に観覧させて公然陳列するに至った場合は、貸与した者について、正犯者の犯行を間接に幇助したものとしてわいせつ図画陳列幇助罪が成立するとした判決です。。

 裁判所は、

  • 被告人が、Aまたはその得意先の者において不特定の多数人に観覧せしめるであろうことを知りながら、わいせつ映画フィルムをAに貸与し、Aからその得意先であるBに右フィルムが貸与され、Bにおいてこれを映写し10数名の者に観覧させて公然陳列するに至った場合、被告人の所為については、正犯たるBの犯行を間接に幇助したものとして、従犯が成立する

と判示し、わいせつ図画陳列幇助罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和41年12月8日)

 特定の1名に対する販売のため、わいせつ物等の販売罪(現行法:頒布罪)をもって問擬(もんぎ)することができない場合であっても、譲受人が販売にかかる当該わいせつ物を不特定多数の者に対して販売(頒布)することの認識がある場合には、譲受人につき販売罪(現行法:頒布罪)、販売人につき販売罪(頒布罪)の幇助犯が成立する余地があるとしました。

東京地裁判決(平成23年9月6日)、控訴審:東京高裁判決(平成24年5月17)

 成人向けのビデオ等のわいせつ性審査を行い、審査に合格した作品についてのみ、審査済シールをパッケージに貼付して市場で販売頒布させることとしていた日本ビデオ倫理協会の審査員らに対してわいせつ図画であるDVDの販売等罪の幇助犯(わいせつ図画有償頒布幇助罪)の成立を認めました。

わいせつ図画等の頒布行為の相手は、頒布罪の教唆や幇助として処罰されない

 わいせつ図画等の頒布行為の相手方(わいせつ図画等を購入した者)は、本来、必要的共犯とされ得るものですが、特に処罰規定がないことから、わいせつ図画等の頒布罪の教唆幇助として処罰されることは原則としてありません。

 わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)の立法に当たり、当然予想される関与行為(わいせつ図画等の購入など)につき処罰規定は設けられておらず、このことが、同関与行為を不可罰とする立法者の意思の現れであるとされます。

 ただし、例えば、頒布の相手方が頒布者に対して積極的に頒布を働きかけ、その結果として自らが頒布を受けた行為は付随的なものにすぎなかった場合など、定型的な関与を超えたといえる場合は、事案に応じて共犯の成立を検討すべき場合もあり得るとされます。

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